第91話 精霊からの罰

「うわぁ、えげつないことするなぁ、お前。

 あと、こいつら立場上は味方だからそこのところは頼むよ」


 ジスベアードが、口をへの字にして俺を責める。


 気がつくと、キンキラキン共は全て石になっていた。

 しかもその際によほどの苦痛を伴ったのか、全員がすさまじい形相をしている。

 見てるこっちまで痛い顔になりそうだ。


「いや、無能な味方は有能な敵と同じぐらい厄介だから。

 あと、この状況で喧嘩売ってくるほうが悪いだろ。

 少しは空気読めとしか言うことないぞ」


 取り繕うのも面倒になったので口調を元に戻しつつ、奴の非難に非難を返す。

 どう考えても俺が悪いって状況じゃないだろ。


 すると、ジスベアードはイタリア人かと思うほど手を動かしながら必死でいいわけをした。


「いやいや、この手の中途半端に権力持っているやつにそれを言うのは無茶だろ。

 こいつら、ふだん領主様以外に頭下げる奴いないんだから」


「あぁ、なんか納得。

 何事も中途半端って困るよな」


「ほんとうに……ちょっとだけ偉い人って、嫌な人多いですよねぇ。

 ものすごく偉い人になると、みんなどこかは素敵なところあるんですけど」


 ポメリィさんに同感である。

 それこそ上級貴族なら、上から下まで気を使わないとあっという間に没落するのが分かっているし、そういう教育を受けているものだ。

 こんなヘマをするはずが無い。

 なぜなら、そんなヘマをする馬鹿はとっくに死んでいるからだ。


「……とりあえず、これあとで戻してくれよ?

 お前にはまだ説明してないけど、今この町はちょっと不味いことになっているんだ」


 たぶん、上役連中を元に戻すよう交渉しないと奴の立場がまずいのだろう。

 とはいえ、頼み方が軽いところを見ると、本音はこのままのほうが色々と都合がいいのだと見た。


 あぁ、わかるよ。

 使えない連中が元気に動き回ると下は色々と大変だからな。

 特に非常事態においてはだ。

 ここはひとつ、できないふりをしてできるだけこの状況を引き伸ばしてやろう。

 俺は空気の読める日本人だからな。


「まぁ、できるだけ戻せるようにがんばるわ」


 生ぬるい視線と共に、やる気の無い返事を返しておくと、ジスベアードは視線だけで感謝を返してくる。

 それにしても、胃の調子が悪そうだな。

 こんど、シェーナに胃薬のレシピでも聞いておくよ。


 だが、そこに魔術師の老人が口を出してきた。


「その必要はございませんぞ、御使い様。

 小生が思うに、これは見せしめにするべきかと存じます」


「見せしめ?」


「さようにございます。

 これを見れば、森の神殿の連中もおいそれと手を出す気にはなれんでしょうから。

 あの神殿にいる連中では、精霊様の施した石化の呪いを解くなど逆立ちしても無理でございます」


 そういえば、森の神殿の神官たちの実力については考えたことも無かったな。

 やっぱり、あそこの神官たちってやっぱり生臭でなまくらなのか。


「たしかにそれは都合がいいが、それでは精霊の恐ろしさばかりが人々の間に広まることとなる。

 精霊の友として、それは少し悲しくはあるな」


 恐怖をもって人々を従えるという事は、そういうことだ。

 悪魔として伝えられる存在も、昔は罰を与える神の使いであったという話は珍しくない。

 長い目で見るならば、彼らの呪いは解いてやらねばならんだろう。

 ……まぁ、ちょっとそれが遅れることぐらいは許容範囲ではあるが。


「む、確かに。

 さすが御使い様。

 小生もそこまでは考えが至りませんでしたわい」


「ところで……改めて聞くけど、このキンキラン共は何者なんだ?」


 俺が石になったキンキラキン共について言及すると、すぐにジスベアードが答えた。


「あぁ、こいつらは領主直属の騎士団って奴だ。

 続きは詰め所の中でしようか」


 確かにそのほうがいいだろう。

 これだけ派手な登場をして、することが立ち話ではあまり様にならない。

 生臭い世俗の話になるだろうし、野次馬が集まる前に場所を移したほうが賢明だろう。


 そして自警団の詰め所の中で薄くて色のついたお湯みたいな茶を飲みながら、俺はこの町の二種類の兵士について説明を受けた。


「なるほど、お前らが町の治安を守る警察官なら、奴らは領主の私的な軍隊というわけか」


「そのたとえはよく分からないが、とりあえず俺たち自警団が逆らえない別組織だと理解してくれたらそれでいい」


 おっと、この世界に警察官はないんだったな。


 つまり、ジスベアードたちのような自警団は平民から募った兵士が中心で、町の暴漢を退治するていどの装備しか支給されていない。

 そして領主は別に騎士団をもっており、こちらは代々の士爵や騎士爵といった連中が中心の、戦争ができる装備が与えられた連中ということである。


 そんな奴らにゴリ押しされたら、そりゃジスベアードは逆らえないよな。


「……で、連中については理解してもらえたから、次はこの町の抱えている問題についてだが」


「あー、聞きたくない」


 俺が耳を塞ぐと、ジスベアードにむなぐらをつかまれた。


「聞けよ! 聞いてくれよ!

 お前、神の使いなんだろ!!」


「貴様、それが神の使いに対する態度か!」


 俺の体を遠慮なく揺さぶるジスベアードに、魔術師の老人の怒りの声が飛ぶ。

 まぁ、実際ちょっと遠慮なさすぎだよなぁ。


「まぁ、ジスベアードの態度はおいてといて。

 森の神殿の連中は何してんのさ。

 正直、俺にかまっているぐらいなんだから暇なんだろ?」


 すると、ジスベアードは汚物でも見たかのような顔でこう吐き捨てたのだ。


「あいつ等が動くわけないだろ。

 このままのほうが都合いいんだし」

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