第70話 思わぬ足止め

 その後、遅れて駆けつけてきた自警団員により、ポメリィさんに殴られて意識を失っていた連中は残らず捕縛された。

 こちらの事情聴取に関しては、ジスベアード隊長がいたため彼にお任せである。

 俺はフィーナと一緒に喫茶店に入って結果待ちだ。


 子供用の椅子がなかったのであやうくレクスフィーナの膝の上に乗せられそうになったが、椅子の上に立つという荒業を思いつくことで危うく回避。

 だが、泥のついた足で椅子の上にのってしまったために、店主から怒られてしまった。

 くそぅ、世間は世知辛いぜ。

 

 その後、一枚布を敷くことで椅子の上に立つことが許されたのだが、なぜか周囲から生暖かい視線を浴びせられる。

 ……この、もこもこした子熊の足がそんなに珍しいですか?

 見ていて和む?

 不本意です。


 そうやって時間をつぶしていると、ジスベアード隊長がポメリィさんと一緒にやってきた。

 心なしかジスベアード隊長の機嫌がよいような気がするのだが、何かあったのだろうか?


「よぉ、待たせたな」


 挨拶もそこそこに、シェーナの隣に座る……と思いきや、先にポメリィさんを座らせて自分は隣から椅子を持ってきた上でポメリィさんの隣に座る。

 なにこれ?

 なんかキラキラしたもの漂わせているんですが、俺の知らない間に悪いものでも食ってきた?


 まぁ、いいや。

 他人の色恋沙汰はかかわらないに限る。


「どうでした? やっぱりどこぞの神殿が?」


 俺がそう切り出すと、ジスベアード隊長は眉間にしわを寄せた。


「いや、捕縛できた連中は何もしらない下っ端だったようだな。

 どこぞの神殿とつながるような証言は何も出てこなかった」


「あ、やっぱり雇われただけでしたか。

 おそらく繋ぎ役の人間は襲撃に参加せず、どこかで隠れて事の成り行きを観察していたってところでしょうね」


 俺のそんな意見に、シェーナも頷く。


「そうね、そそのかした奴は別にいたんでしょうね。

 でもなきゃ、あんな馬鹿共でも自警団の隊長が休日に奉仕作業をしている場所へ襲撃なんて無謀なことするはずもないわ」


 そしてポメリィさんの登場で状況が悪くなったことを察し、その繋ぎ役は自分に手が回る前にその場から逃走したのだろうな。

 実に用心深いことだが、俺でもたぶんそうする。


「ところでポメリィさん。

 俺が旅に出た後、向こうの町の様子はどうでした?」


 先ほどの襲撃に関しての話題はこれ以上ないと判断した俺は、気になっていたことをポメリィさんに尋ねた。

 すると、一瞬キョトンとしたあとで、ポメリィさんはようやく自分が話しかけられたことに気づく。

 こういうところは相変わらずだな。


「あ、はい。

 結構な騒ぎになってましたよ。

 あのあと、マルコルフさんとスタニスラーヴァさんが中心になって応援部隊を編成してました」


「……となると、スタニスラーヴァさんがくるのかな」


 マルコルフはたぶんこない。

 あいつはお偉いさんだから、仕事やなにらやらで町から離れることができないだろう。


「そうですね、たぶんスタニスラーヴァさんが指揮をとってこちらに向かっている頃だろうと思います」


「そっか。

 じゃあ、あと数日ほどはこの町にいたほうがいいかな」


 すると、ジスベアード隊長がわかりやすく反応した。


「うぇ? 数日!?

 な、なにもそう急がなくてもいいだろ?

 一ヶ月ぐらいゆっくりしたらどうだ?」


「いや、わけあってこの町に長居はできないんだ」


 ちらりとシェーナのほうをみると、なぜか睨み返された。

 いや、お前のせいなんだからなんでにらまれなきゃいけないのさ。


「それに、この町にいたら森の神の神殿が嫌がらせをしてくるだろうしな」


 一番大きな理由はそこである。

 どう考えても、連中にとって俺の存在は邪魔だろうからな。

 襲撃も、これが最後だとは思わないほうがいいだろう。


「い、いやそれはなんとかするから!

 この町の復興に力を貸してくれると嬉しいんだが……」


 ……というのはほぼ建前だろ。

 まぁ、この町が復興のためは俺の助けがあったほうがいいのは間違いないが。


「そういわれると弱いけど、なんでジスベアードさんがそこまで頭下げるのかわからないんだけど……」


 いや、本当はよくわかっているんだがな。

 俺がため息をこらえつつポメリィさんを見ると、なんでこっちを見ているのかわからないといわんばかりの表情で首を傾げられた。

 なぁ、これはちょっと厳しいとおもうぞ?


「……とりあえず、旅をするにもいろいろと足りないものが多すぎるわ。

 旅の仲間が追いかけてくるなら、とりあえず様子見で一週間ぐらいは待ってもいいんじゃない?」


 たぶん状況を察して話が進まないと思ったのだろう。

 シェーナがそんなことを言い出した。

 まぁ、正論ではある。


「そうだな。

 まずは宿か短期での貸し出しをしている借家を探さないと」


 問題は俺たちが町に滞在している間の羊の面倒だが、あれは森に放っておいてもたぶん大丈夫だ。

 こっちが動き出したら勝手に察してついてきそうな気がする。


「じゃあ、今から宿探しでも始めましょうか」


「おぉ、とりあえず町の案内は任せてくれ」


 そのたくましい胸を叩いて案内を買って出たジスベアード隊長だが……。

 数十分後、すでに森の神の神殿の根回しが町中に回っているということを知る事となる。

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