双子の親になっちまった!? その3
『【レアイベント】移動別荘を手に入れよう』
と、まぁ……いきなりイベントが始まったわけなんだけど……実際問題として、どうやって移動しているロックトータスの背中というか、甲羅の上に別荘を建てればいいんだ?
移動速度は遅いし、背中の上に降りるのは問題なく出来そうだけど……
「トリミ、ロックトータスの背中の上に着陸出来るかな?」
「ふぇ!? あ、あのロックトータスの江中の上にやの!? ……せやなぁ……まぁ、出来んこともなさそうやけど……ほな、やってみるわぁ」
少しフワフワした口調のトリミは、大きな羽根を羽ばたかせながらゆっくりと下降しはじめた。
「うわぁ、ゴツゴツです!」
「とってもデコボコしています!」
クーリとフリテリナが嬉しそうに声をあげているんだけど……ロックトータスの背中って、すっごくゴツゴツしていて、平らな場所が全然ないんだよな……これじゃあ、着地するのは難しいんじゃあ……
2人の後方からロックトータスの背中を眺めていた俺がそんな事を考えていると、
「旦那様、ちょっと着地出来る場所を作ってくるんだからね!」
エカテリナは、そう言うと同時にゴンドラから飛び降りていった。
って!? まだ結構高さがあるっていうのに!?
「え、エカテリナ!?」
思わず声をあげた俺……だったんだけど、そんな俺の視線の先のエカテリナで、エカテリナはふわりと空中に浮かんでいた。
よく見ると、その背中に半透明な羽根みたいなものが出現している。
「うわぁ! エカテリナ様って、天使の翼スキルをお持ちなんですね!」
「天使の翼スキル?」
興奮気味なエナーサちゃんに、首をひねりながら質問する俺。
そんな俺に、グイッとにじりよってくるエナーサちゃん。
「短時間ですけど飛翔する事が出来るレアスキルなんです! 以前開催された翼竜討伐イベントでごく希に入手出来たレアスキルだったのですけど、あのイベントってゲームバランスが壊滅的に崩壊していたといいますか、廃課金勢でもまともにクリア出来ない人が続出した鬼畜イベントとしてディルセイバークエストの黒歴史の1つに数えられている……」
興奮した様子で語りまくっているエナーサちゃんなんだけど、ちょ、ちょっと距離が近いってば……
「げ、ゲームのイベントがどんな物だったのかはわからないけど、あの羽根がすごいって事はよくわかった、うん」
苦笑しながらエナーサちゃんの両肩を掴んで後方に下がらせた俺。
俺の腕に負けることなく、興奮した様子で語り続けているエナーサちゃん。
そんなエナーサちゃんの眼前に、いきなり剣が突きつけられた。
「ちょっと小娘、アタシの旦那様に過度なスキンシップを取ることは許さないんだからね!」
背後に絶望のオーラモーションを発動させながら、エナーサちゃんに剣を突きつけているエカテリナ……って、羽根を使って上昇してきたのか……
で……剣を突きつけられているエナーサちゃんなんだけど……ガタガタ震えながら『降参』とばかりに両手を真上にピーンとあげていたわけで……まぁ、そうなるよなぁ。
そんな中……
「ママ、すごく格好いいです!」
「お母様、素敵です! 天使みたい!」
クーリとフリテリナが、目を輝かせながら空中のエカテリナを見上げていた。
キラキラした眼差しで見つめられていたエカテリナは、その視線に気がつくと、
「き、今日のところは子供達に免じて警告にとどめておくけど、以後気を付けなさい!」
ツンデレ口調で言い放ち、再びロックトータスへ向かって下降していった。
「ロックトータス、悪いけど背中を少し削らせてもらうんだからね!」
いつもの剣ではなく、刃部分が広くと太い剣を手にしているエカテリナ。
自分の身長以上の長さがある巨大な剣を、大上段に振り上げると、
「せいやぁ!」
下降しながら、一気に振り降ろしていった。
剣が振り降ろされた先にある岩場が、一瞬にして砕け散っていく。
その場に降り立ったエカテリナは、更に剣を振り回していった。
時間にして1分も立たないうちに、ロックトータスの背中の真ん中付近に、丸い平地が出来上がっていた。
「……えっと……せ、粉砕してもよかったのかな……痛くなかったのかな……」
なんか、乾いた笑いしか浮かんでこないんだけど……そんな俺の言葉が聞こえたのか、エカテリナがゴンドラを見上げていた。
「大丈夫ですわ旦那様。ロックトータスの背中の岩は、甲羅の上に堆積しているだけなんだからね!」
「あぁ、そうなんだ。なら大丈夫か」
エカテリナの言葉に、安堵した俺。
一応、その背中をお借りするわけだし、粗相をしてもあれかなって思ったわけなんだけど、どうやら取り越し苦労だったみたいだ。
「ほな、降りるさかい、みんな何かに捕まっててなぁ」
トリミが、ゆっくりとロックトータスの背中へ着地していく。
その言葉に従って、俺とエナーサちゃんはゴンドラの縁を掴んでいたんだけど……クーリとフリテリナの2人は俺にしっかりと抱きついていて……うん、なんかすごく嬉しくなるな、子供達に頼られているパパ的なシチュエーションってば。
◇◇
ロックトータスの背中に降り立った俺達。
「へぇ、意外と振動とかは気にならないんだ」
体を上下させながらのっしのっしと歩いているロックトータスなんだけど、背中の上は完全に平坦というか、周囲の景色が流れていくだけで上下の振動はいっさい感じなかった。
「これなら、別荘を建てても問題なさそうですね」
エナーサちゃんは、周囲をキョロキョロ見回しながらあちこちを調べ回っている。
以前は大手攻略サイトの一員としてゲーム情報を取材していた彼女だけに、レアイベントを前にすると取材精神が刺激されているのかもしれないな。
今はイースさんの攻略サイトのお手伝いをしいているわけだし、その取材って意味もあるのかもしれないけど、それより何よりエナーサちゃんがすごく楽しそうにしているのを見ていると俺まで嬉しくなってきてしまう。
以前のエナーサちゃんは、人気記事を作成するために必死になって取材とかしていた感じだったからなぁ……あの頃のエナーサちゃんは全然楽しそうじゃなかったっていうか……やっぱ、ゲームは楽しくやらないとな、うん。
エナーサちゃんの様子に、思わず笑顔で頷く俺。
そんな俺の後方には、岩石の塊が転がっていた。
先ほどエカテリナが破壊した物なんだけど……
「この岩石って、何かに使えるかもしれないな……」
そんな事を考えた俺は、収納ストレージの中に岩石を収納していった。
俺の身長の5倍近くある巨大な岩石なんだけど、ストレージに入れると、
『ロックトータスの岩石 × 8個』
と、一行で収納されてしまったわけで……まぁ、ゲームの中だし、質量の法則とかを気にしてもしょうがないか。
「じゃあここに俺達の別荘を建てるとするか……えっと、どうやったらいいんだ?」
自分のステータス画面を確認しながら、あれこれ模索していると、
「パパ、これです! 収納ストレージを確認するのです!」
「お父様! その中にある【建物】のページを開いて、その中にある【別荘】をクリックするのですわ」
俺の側へ駆け寄ってきたクーリとフリテリナが笑顔で教えてくれた。
この辺りは、さすがNPCということなんだろうけど……今日産まれたばかりの子供達にあれこれ教えられるっていうのは、なんか変な感じがするな。
「ありがとう2人とも……えっと、建物のページの別荘……これか」
ウインドウの中に出現した【別荘】の文字をクリックした俺。
『ここに別荘を建てますか? はい/いいえ』
すると、新たなウインドウが表示された。
まぁ、ここは当然『はい』だよな。
そう思っていると、俺よりも早くクーリが、
「パパ! 押してあげます!」
って言うが早いか『はい』を右手でバン! っと叩いた。
……この世界のNPCは、プレイヤーよりも早く選択ボタンを押すようにプログラムされているんだろうか……ラミコといい、リサナ神様といい……
以前の事を思い出しながら苦笑していた俺なんだけど……そんな俺の眼前に洋風の建物が出現した。
「ホント一瞬だな……」
さすがゲーム……と、思いながら出来上がったばかりの別荘を見上げる俺。
石造り2階建ての別荘には、ベランダも備え付けられていて、周囲の展望を楽しむことも出来そうだ。
……おかしいな
ここで俺はある事に気がついた。
別荘が出来上がったというのに、
『イベントクリア』
のウインドウが一向に出てこないんだよな。
「ひょっとして、まだ何かしなきゃならないのか?」
俺は、腕組みをしながら周囲を見回していたんだけど……あれ? なんだありゃ?
メイド服を着た何かがこっちに向かって駆け寄っているんだけど……
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