ようやく戻ってきたアイツ その4

 以前のフオドーハは、どこか胡散臭い印象があったんだけど、今のフオドーハはすっごい明るい印象で、以前の印象とは180度変わって見えた。


「……あ、あの……マジでフオドーハなのか?」

「うん、マジでフオドーハなのよ」


 俺の言葉を受けて、ニカッと笑うフオドーハ。

 

「これってば、全部フリフリ村長のせいなんだから」

「は? 俺の?」


 フオドーハの言葉に目が点になる俺。

 そんな俺の腕に抱きついてくるフオドーハ。

 悪戯っぽく舌を出しながら、小悪魔的な笑みを浮かべている……って、いくらなんでもキャラが違いすぎだって。


「だってさぁ、アタシ、フリフリ村長と愛人契約してたからさぁ、フリフリ村長の村がレベルアップしたことで、アタシまで存在進化しちゃったってわけ」


 ……確かに以前、フオドーハが買い取った仲間キャラを斡旋してもらう約束をしてたんだよな。

 今日も、それでフオドーハのところへ向かっていたわけなんだけど……


「ちょっと待て……俺は仲間キャラの斡旋の契約をした覚えはあるんだが、お前と愛人契約なんかした覚えはないぞ?」

「やだなぁ、そんな堅いこと言わないでよ。それくらい感謝してるって話なんだから」


 小悪魔的な笑みを浮か続けながら、俺の腕を胸の谷間に挟んでいくフオドーハ。

 だから、キャラが変わりすぎだって、お前!?


「と、とにかくだな、俺はエカテリナ以外の女性とそういう関係になるつもりはないからな」


 腕を引っこ抜き、フオドーハから離れる俺。


「もう、据え膳食わないってひどい男ねぇ……でも、それがいいんだけどね。んじゃ、お仕事の話をしましょうか」


 クスクス笑いながら、ウインドウを表示させるフオドーハ。

 まったく……最初からそうしてくれよ、マジで。

 ため息をついている俺の前に表示されたウインドウの中には、


 ・仲間キャラの種族

 ・性別

 ・所持スキル


 こういった項目が一行になって表示されていた。


「仲間キャラの項目をクリックしたら詳細を確認出来るわよ」

「クリックって……こうか」


 ウインドウの中の一行を右手の人差し指で触ってみると、新しいウインドウが表示された。

 その中には、仲間キャラのバストアップ画像と、3D画像が表示されていて、身長・体重なんかも明記されていた。

 ちなみに、3D画像はクルクルと回転していて、前後左右全てを確認することが出来る仕組みになっているみたいだ。


 ちなみに、今表示されているのは、軟体質な丸い塊で……これは、詳細を確認するまでもなくスライムだろう。


「前にもお話したと思うけど、アタシが紹介するのは存在進化の可能性が高い仲間キャラが中心だからね」

「確か、人間じゃない方が存在進化しやすいんだっけ?」

「そうそう。その分、ガチャからの排出確率の低く設定されているんだけどね……とはいえ、このキャラ達が役に立つのはあくまでも内政で、だから」


 基本的に、仲間キャラは戦闘にむいていないって、前にファムさんから聞いたことがあったけど、やっぱりそういう事なんだな。

 ゴブリンのグリンみたいに、戦闘に特化した存在進化をした仲間キャラもいるけど、あれにしても村を警護するためのスキルみたいだし。


「フリフリ村長に販売出来るのは1週間に10キャラまで。ただし、存在進化の可能性が低いキャラなら、この限りではないわ。

 それと、存在進化の可能性が高いからといって絶対に存在進化するわけじゃないから、そこはご理解くださいな。

 多少のアドバイスはさせてもらうけど、相応のお金は払ってもらうからね。契約したとはいっても、そこは商売だからさ」


 右手の人差し指と親指でお金のポーズを取りながらニシシと下品な笑みを浮かべているフオドーハ。

 うん、この笑みは以前のフオドーハに近い気がしないでもない。


 存在進化って、周囲の状況の変化や、経験を積むことで可能になるもんな。

 目の前にいるフオドーハは、俺と契約して、俺の村がレベルアップしたおかげで存在進化したみたいだし、グリンにしても、村の警備を地道にこなしていったおかげでエカテリナに同行出来るまでに存在進化したわけだしな。

 リサナ神様とクレイントーラ神様が漫才コンビに存在進化したのは……いや、そもそもあれは存在進化なんだろうか?


「それは了解した。当然、お金は払わせてもらうから」

「さっすが、フリフリ村長! 物わかりが早くて助かるわ。最近は話の通じないプレイヤーが多くてねぇ」

「話が通じない?」

「そうなのよ。今まで一度も取引したことがないプレイヤーが、いきなり


『ラミアの女の子を売ってくれ』


 とか、


『語尾が「ベア」な、女熊を売ってくれ』


 とか、


『ナイスバディなゴブリンを売ってくれ』


 とか、言ってくる事が増えて困ってるのよね。どこかの攻略サイトの情報を聞きかじったみたいなんだけどさ」


 ラミアに、女熊に、ゴブリンって……妙にひっかかるチョイスな気がしないでもないんだけど……


「ま、そんなわけで、アタシとしても優良顧客のフリフリ村長とはこれからも有効な関係を続けさせていただきたいんですよね」


 そう言うと、ウインドウの中のいくつかの項目をクリックした。


「これは、初回サービスってことで」


 悪戯っぽく微笑むフオドーハ。

 そんなフオドーハがクリックしたことで、複数のウインドウが新たに表示されたんだけど、


 一人は……人型をした木

 一人は……ゴロゴロ転がっている岩

 一人は……羽毛が集まった玉


 ……これを一人と言っていいのか、判断に悩むところなんだけど……

 怪訝そうな表情を浮かべている俺。

 そんな俺の前で、クスクス笑いながら口元を抑えているフオドーハ。


「……そうだな、じゃあこの3人と、さっきのスライムを買わせてもらうよ。あと、存在進化の可能性が少ないキャラも10人くらいほしいんだけど」

「はい、毎度ありがとうございます」


 揉み手をしているフオドーハの背後で、


『ちゃり~ん』


 っていう効果音がしたような気がしたんだけど、こういうところも凝ってるんだよな、このゲームってば。


◇◇


 フオドーハが連れてきた仲間キャラ達を前にして、俺は、

「メタポンタ村のフリフリ村長だ。これから君達と一緒に村を楽しくしていきたいから、よろしくな」

 そんな挨拶をしながら、一人一人と握手を交わしていった。

 そんな俺に、仲間キャラのみんなは、

「そ、そんな……わ、私達なんかにもったいない」

「助けていただいたというのに、そんな優しいお言葉を頂けるなんて」

「私達、すっごく頑張ります!」

 そんな言葉を返してくれた。

 中には感激のあまり涙を流しているキャラまでいるし……

 そんなみんなと一通り挨拶を交わし終わった俺は、改めてフオドーハへ向き直った


「今日はありがとな、フオドーハ。じゃあ、またくるよ」

「えぇ、またお待ちしてますね……そ れ と 」


 再び俺の腕に抱きついてくるフオドーハ。


「愛人契約の件も、よ ろ し く」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、俺の耳元にふぅ、っと息を吹きかけてきた。

 そんなフオドーハの鼻先に、


 いきなり剣が突きつけられた。


「嫌な予感がしたから、急いで駆けつけてみれば……旦那様に悪い虫がつこうとしてるじゃないの!」


 そこに立っていたのは、エカテリナだった。

 瞬間移動の魔法を使ったらしく、その背後に魔法陣が浮かんでいる。

 

「あ、あらぁ……エカテリナ様ってば、そんなに青筋たてなくても……あは、あはは」


 脂汗を浮かべながら後退るフオドーハ。

 しかし、その背後にポロッカが回り込んでいて、


「うが~! っだベア!」


 両腕を振り上げていて、その横にはグリンが剣を構えていて……うん、フオドーハ、完全に詰んでるな……


「あ、あの……いえ、こ、これは……ですね、違うんです! 誤解なんです!」

「そんな浮気女のテンプレ言い訳みたいな言葉、聞きたくないんだからね!」


 逃げ場がないと悟ったフオドーハが、土下座している前で、フオドーハに向かって剣を向け続けているエカテリナ。

 その光景を前にして、思わず苦笑する俺。

 すると、俺の後方で様子を見ていた新たな仲間キャラ達まで声をあげて笑いはじめた。


 まぁ、きっかけはともかく、新しい仲間達とも仲良くなれた気がするので、フオドーハにも少しは感謝しないとな。

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