ちょっとそれはねぇ…… その3

 俺に話しかけてきたNPCなんだけど……


 ……なんだろう


 ……すごく親近感が沸くというか


 ……いや、沸かない方がおかしいというか


 そのNPCなんだけど……身長は俺と同じくらい。

 つまり、かなり小柄なんだけど、その頭部に


 

 ワニの被り物を被っている。



「……あの、あなた……リサナ教の関係者ですか?」

「な!? な!? な!? なんでわかったんですかぁ!?」


 俺の言葉に、びっくりしている女の子なんだけど……


「うむ、その被り物で分からない方がどうかしているのじゃ」


 腕組みしているラミコの言葉に、思わず頷いてしまう俺。

 何しろ、そのワニの被り物ってば、リサナ神様が持参している被り物と瓜二つなんだから、わからない方がおかしい。


 そのリサナ神様はというと、今も外で説法をしている最中だった。


「リサナ神様に用事なら、呼んでくるけど?」

「いえいえ、いえいえ、いえいえ、違うんです……今日はフリフリ村長さんにお願いがあってお邪魔させていただいた次第なのです」


 女の子がそう言うと、俺の目の前にいきなりウインドウが表示された。


『リサナ教クエスト リサナ教女神見習い「リトリサ」を一人前にしよう』


「……は?」


 そのウインドウを見た俺は、思わず目が点になってしまった。

 なんだ、これ?


 リサナ教見習い?


 それを一人前に?


 そもそもリサナ教って、リザード族で信仰されていた宗教じゃなかったの?


 ウインドウを見つめながら、頭の中にいくつものクエスチョンマークが飛び交っていた。

 で、このウインドウはエカテリナにも見えているらしく、


「ひょっとして、村のレベルがあがったから、新たなクエストが解放されたのかもしれないわね……」


 そんな事を呟いていた。

 あぁ、確かに……今日、ログインした時にドラゴンの村のイベントのクエストがクリア扱いになった時に、村のレベルがあがってたもんな。


 俺が、エカテリナと顔を見合わせていると……女神見習いの、ウインドウに表示されている名前からして、リトリサって名前なんだろうな、そのリトリサが、


「あの、あの、あの……わ、私をここで修行させて頂きたいんです、どうか、よろしく、よろしく、よろしくお願いいたします!」

 

 って、ワニの被り物を被ったまま、思いっきり頭を下げたんだけど……その拍子にワニの被り物が外れてしまい、店の中に転がっていった。


「あらあらあら、まぁまぁまぁ」


 って、リサナ神様と同じ反応をしながらワニの被り物を追いかけていくあたり……やっぱりNPCなんだな、って改めて実感してしまう俺なんだけど、リトリサはワニの被り物を追いかけながら、俺の目の前に表示されているウインドウの下部に表示されていた、


『このクエストを受理しますか? はい/いいえ』


 の、『はい』の部分を、右手でポチッと押していった……


「ちょ!? ラミコといい、リサナ神様といい、このゲームのNPCは自己主張強すぎないか!?」


 思わずそんな事を口にした俺なんだけど、そんな俺の目の前でようやくワニの被り物を被り直したリトリサが、改めて俺へ向き直った。


「えへへ……改めまして、これからよろしくお願いします、フリフリ村長さん」


 リトリサの頭の上には、


『リサナ教クエスト スタート』


 って書かれたウインドウが表示されていた。

 すると、そんなリトリサに向かって、エカテリナが、


「旦那様? このような小娘の言うことを聞いてあげる必要なんてないんだからね! このアタシの愛剣の錆びにしてあげるんだから!」


 俺がプレゼントした指輪とセットになっている、あの剣をリトリサの首元に突きつけていった。

 その横では、ラミコが、


「そうなのじゃ! いきなり現れてずうずうしいのじゃ、この小娘が! 妾の猛毒の餌食にしてくれるのじゃ!」


 舌をチロチロさせながら、リトリサに顔を近づけていた。


「っていうか、2人ともいきなりどうしたんだ? リトリサの修行をしてあげるだけなんだし、それくらいなら別に問題は……」


 そこまで言ったところで、俺はあることに気がついた。

 エカテリナとラミコに脅されて真っ青になっているリトリサなんだけど、その横に新しいウインドウが表示されていた。

 そのウインドウには、


『クエスト内容 リトリサの花嫁修業を成功させよう』


「……っていうか、は、花嫁修業!?」


 その言葉を確認した俺は、思わず目が点になってしまった。

 

「まったく、いきなり現れて旦那様の花嫁になろうなんて、このアタシが許さないんだからね!」

「まったくもっと同感なのじゃ!」


 2人揃って絶望のオーラモーションを発動させながらリトリサににじり寄っていくエカテリナとラミコ。

 そんな2人に向かって、必死になってワニの被り物を左右に振っているリトリサ。


「違うのです! 違うのです! 違うのです! 便宜上花嫁修業となっていますけど、別にフリフリ村長さんの嫁になりたいわけじゃないんですぅ」

「何よ! 旦那様が魅力的じゃないっていうの!?」

「なんと失礼な小娘じゃ! 今すぐ毒殺してくれるのじゃ!」


 リトリサの言葉を受けて、絶望のオーラモーションのレベルを2段階くらい引き上げたエカテリナラミコ。

 そんな2人の前で、震え上がっているリトリサなんだけど……


「2人とも、少し落ち着け……これじゃあ話が進まないじゃないか」


 と、まぁ……どうにか2人を後退させて、改めてリトリサに事情を聞くことにした。


◇◇


「……じゃあ、リトリサが花嫁修業を行うことで、新たなリサナ教の神様になれるってことなのかい?」

「そうなんです、そうなんです、そうなんです。今の私はリサナ教に属しているのですが、新たな神様になるべく、修行している最中なんです」

「事情はわかったけど……で、なんで花嫁修業なわけ?」

「あ、あのですね、あのですね、あのですね。私は、愛の女神となるべく修行をしているんです。その愛を知るために、花嫁の気持ちを理解するための修行なのです」

「はぁ……まぁ、事情はだいたいわかったけど……具体的に、俺達は何をしたらいいんだい?」 


 俺がそう言うと、リトリサはにっこり微笑んだ。


「はい! はい! はい! あのですね、まずはこのお店の店員として働かせていただきたいんです」

「え? この店で?」

「はい! 良妻賢母の修行として、旦那様の仕事をお手伝いする妻の気持ちを理解するため……」


 ここで、エカテリナとラミコが再びリトリサに駆け寄っていく。


「旦那様!? フリフリの事をそう呼んでいいのはアタシだけなんだからね!」

「そうなのじゃ! 妾だってそう呼びたいのに、奥方様に遠慮して自重しておるというのに!」


 絶望のオーラモーションのレベルを更に上げている2人。

 そんな2人をどうにか、なだめていく俺。

 その後10分近くかかって、ブツブツ言い続けているエカテリナラミコを後方に待機させて、改めてリトリサ向き直った。


「……改めて聞くけど、つまりクエストの一環として、この店の手伝いをしたいってことなんだね?」

「はい! はい! はい! そうなんです! 旦な……じゃなかった、フリフリ村長さんのお手伝いをすることで、花よ……じゃなかった、修行をさせて頂きたいんです」


 エカテリナとラミコを過剰反応させてしまう「旦那様」と「花嫁修業」というワードを巧みに避けながら説明していくリトリサ。


「それで、リトリサは何が出来るんだい?」

「はい、簿記と現金管理、それに経営手腕の隠しスキルを所持していますので、お店の経営でしたら一通り問題なくこなせると思います」


 そう言ってにっこり笑ったんだけど……えっと、隠しスキルを自分から暴露しちゃっていいの? ねぇ? って、思わず心の中で突っ込んでしまったんだけど、そんな事を考えている俺の前で、リトリサは、


「後は、実際にお店の経営のお手伝いをさせていただいて、スキルアップさせて頂けたら、それでクエストその1をクリアすることが出来るんです」


 嬉しそうな声でそう言った。

 で、それを受けてエカテリナとラミコは、


「ホントにそれだけなのかしら……」

「何かよからぬ予感がするのじゃ」


 って、相変わらずブツブツ言っているんだけど……


「確かに、ちょうど店員を探そうって思っていたところだし、お願いしようかな」


 実際、このタイミングでリトリサが出現したってことは、それなりの人材ってことなんだろうし……そんな事を考えながら、俺はニカッと笑みを浮かべていった。




 ……その後、エカテリナとラミコを説得するのに1時間近くかかった

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