とりあえず頑張るしか…… その2

 街に出来ていた行列は、俺の店から伸びていたわけで……


「うわ、こりゃ大変だ」


 それを見た俺は、店の裏口から慌てて駆け込んでいった。

 そんな俺の後に、イースさん、ラミコ、ポロッカが続いてくる。


 ……あれ? リサナ神様は……


「はいはいはい、皆様ご苦労様でございますわぁ」


 何故か、行列のまん中あたりに出向いていって笑顔で挨拶をはじめていた。

 こ、この忙しい時にいったい何をやってんだ!? って思った俺なんだけど……


「うぉぉ! り、リサナ神様だぁ!」

「俺の! 俺達のリサナ神様!」

「リ・サ・ナ」

「リ・サ・ナ」

「「リ・サ・ナ」」

「「「リ・サ・ナ」」」


 気がついたら、リサナ神様に向かってプレイヤー達が一斉に歓声と大リサナコールを上げ始めていた。

 んで、リサナ神様ってば、そんなみんなに向かってにこやかに微笑みながら手を振り続けていた。


「……おいおい、こりゃ一体どういうことだ?」


 窓の外の異様な盛り上がりを見つめながら、思わず目を丸くしてしまう俺。

 そんな俺に、イースさんが声をかけてきた。


「多分、エナーサさんの記事の影響でしょうね」

「エナーサちゃんの記事っていうと……リサナ神様のインタビュー記事です?」

「そうです。あのインタビュー記事のコメント欄、すごいことになっていましたからね。

 『神降臨』とか『神様と交流出来るなんて!』とか、とにかくすごかったですよ」

「そ、そんなことになってたんだ……」


 俺は記事しか読んで無かったんだけど、まさかコメント欄がそんなことになっていたなんてなぁ……


「でもまぁ、リサナ神様のおかげでしばらく時間が稼げそうだし、今のうちに商品を陳列してしまおう」

「そうですね、私もお手伝いします」

「ポロッカも頑張るベアよ!」

「主殿、妾にも任せるのじゃ!」


 俺の言葉に、笑顔で頷いてくれるイースさん、ポロッカ、ラミコの3人。


「あらあらあら、私もお手伝いいたしますわよ」


 その声が聞こえたのか、リサナ神様ってば扉を開けて店内に入ってこようとしたもんだから、


「り、リサナ神様は、外で皆さんに……そ、そうだ! リサナ教の教えを広めてあげてください! これはリサナ神様にしか出来ないことですから、マジで頼みます!」


 慌てて駆け寄りながら、声をかけていった。


「まぁまぁまぁ、それは良い考えですわぁ! このリサナ、張り切って皆様にサリサナ教を布教させていただきますわぁ……」


 そう言いながら、力コブポーズを取ろうとしたリサナ神様なんだけど……振り上げようとした腕がワニの頭の被り物を跳ね飛ばしてしまい、街道を転がっていってしまった。


「あらあらまぁまぁ」


 それを、右手で顔を隠しながら追いかけていくリサナ神様。

 その周囲を取り囲んでいるプレイヤーの皆様はというと……


「みんな! 今、見てはいかん!」

「目を閉じるか、そっぽを向くんだ!」


 リサナ神様から一斉に視線をはずして、リサナ神様の素顔が見えないようにしていた。

 インタビュー記事の中に、


『私の頭が取れたりすることはありませんけど、もしそんな事が起きた気がしたら絶対に見てはいけませんよ。リサナ神様との約束でございますわよ』


 っていう一文があったんだけど……みんな律儀にそれを守っているんだろうなぁ。

 うん、なんかそういうノリって、嫌いじゃない。


◇◇


 お邪魔虫にしかならないと思われていたリサナ神様の、まさかのファインプレーのおかげで時間が稼げたもんだから、その間に俺達は持って来た商品の陳列を終えることが出来た。


 ……とは言うものの


 集まっていたプレイヤーの数が多すぎたもんだから、持って来た商品はあっという間に売り切れてしまった。


 店内の売り物がすべてなくなってしまったもんだから、店の前には『閉店しました』の看板をぶら下げているんだけど……今日は実質30分しか営業出来なかった。


「ザミナスさん達から仕入れることが出来るリザード族の防具の数が限られているからなぁ……もう少したくさん仕入れる事が出来たらいいんだけど……」

「……」

「どうかしました? イースさん」

「いえ……ちょっと思ったんですけど……ザミナスさんから仕入れることが出来る武具の数って、村のレベルがあがったら増えたりするんじゃないでしょうか?」

「あ……そっか。そう言えば、村のレベルがあがったおかげで、こうして店を持つことが出来たんだし……その可能性はあるかもですね」


 イースさんの言葉に大きく頷く俺。

 

「となると、もっともっと頑張って村のレベルをあげないと、ですね。まぁ、その条件がよくわからないのがあれなんですけど」

「それを調べながら頑張っていくのも、また楽しいじゃないですか。私も協力させていただきますから、一緒に頑張りましょう」


 俺に向かって、イースさんも大きく頷いてくれた。

 

 なんていうか……やっぱりイースさんは頼りになる。


 開店した店にプレイヤーが殺到しかけると、

『今日はお客様が多いので入場制限を設けさせていただきます。ご理解ご了承の程をよろしくお願いいたします』

 といった具合に、店の入り口でテキパキと大量のお客さんを手際よくさばいてくれたし、待っているお客さんが焦れ始めると、

『リサナ神様、ちょっと後方の方々にリサナ教の素晴らしさを布教してきてくださいな』

 って、指示を出してお客さんの関心をそらしてくれたり……その都度、大リサナコールがこだまするのはちょっとあれだったんだけどね……

 とまぁ、そんなわけで、俺とポロッカ、それにラミコの3人だけだったら、いまだに店内にお客さんが押し寄せていて身動きが取れない状態が続いていたはずだ。


「何から何まで、本当にありがとうございます。今日もイースさんのおかげで無難に店を営業出来ましたし」


 改めてお礼を言う俺。

 そんな俺とイースさんの横に、リサナ神様が歩み寄ってきた。


「あらあらまぁまぁ、本妻さんに加えてこんなに有能な愛人さんまでいらっしゃるなんて、フリフリさんってばなかなか隅におけませんねぇ」

「あ、愛人って……」


 ワニの頭の被り物の頬のあたりを両手で押さえながら体をくねらせているリサナ神様。

 リサナ神様の言葉を聞いたイースさんってば、苦笑していたんだけど……


 ……ゲームの中でなら、それも悪くないのかな……


「……え? イースさん、今何か言いました?」

「い、いえいえいえな、何も言ってませんよ、えぇ、何も……」


 慌てて顔を左右に振るイースさん。

 そんなイースさんに、リサナ神様がワニの頭を近づけて、


「あらぁ? あらあらあらあらぁ?」


 なんか、すっごく嬉しそうな声をあげていたんだけど……次の瞬間、リサナ神様のワニの頭の被り物を両手で掴んだイースさんってば、それを街道に向かって放り投げてしまった。


「さぁ、取りに行ってください!」

「あらあらまぁまぁ」


 右手で素顔を隠しながら、街道を転がっていくワニの頭の被り物を追いかけていくリサナ神様。


 ……なんというか……イースさんもやる時はやるんだなぁ。


◇◇


 その後……


 俺達は店の片付けを済ませると、公園へと移動していった。


 久しぶりに仲間キャラを買い取りしようと思っている。

 と、いうのも、


「村のレベルをあげる条件として一番重要なのは、どうも村の人口を増やすことみたいですからね」


 そうなんだ。

 ファムさんがそんなことを言ってたもんだから、そのためでもあるわけなんだ。


 課金くじの外れアイテム的存在のノーマルの仲間キャラは、買い取りを行っているNPCキャラよりも少し高めに買い取るって声をあげると、短時間に20人近く集めることが出来た。

 

 今日、仲間としてプレイヤーから買い取ったのは20人。

 ラミコの荷車に乗せる事が出来る限界の数だ。


「人の男が9人と女が9人……それと、俺と同じドワーフの男が2人か」


 このドワーフなんだけど……


『ドワーフのあんたにはお似合いじゃないか?』


 って、笑いまくっていたプレイヤーが、半ば押しつけるようにして引き取ることになったんだ。

 まぁ、モンスター討伐がメインのこのゲームで、ドワーフを選択するプレイヤーはほとんどいないって話だしな……笑われても仕方ないだろう。


「2人とも、これも何かの縁だと思うし、よろしくな」


 ドワーフの2人に笑顔を向ける俺。

 そんな俺に、ドワーフの2人は、


「まさかワシらを仲間に加えてくれるプレイヤーがおるとはのぉ」

「まかせてくれ、きっと後悔はさせんからな」


 ガハハと笑いながら俺の肩をバンバンと叩いてくれた。

 なんか、この2人とは馬が合いそうだな。


 そんなわけで、新たな仲間を加えた俺達は、ラミコの引っ張る荷車で街を後にしていった。

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