湖ってことはやっぱりあれなわけで…… その2
湖の主を倒した俺達は、本来の目的であるリサナ神の祠を探して海底をウロウロしていた。
相変わらず泳ぎがダメダメなエカテリナなんだけど、俺が引っ張ってやっているおかげでスムーズな移動が出来ている。
そのおかげで、俺達に接近してくるモンスターを難なく退治してくれていた。
「さすがエカテリナだな。全然モンスターを寄せ付けないなんて」
「ふん、ボスを討伐していますから、残りは雑魚ばかりですもの。私が手こずわけがないでしょう……そ、それに、旦那様を危ない目に遭わせるわけには……ゴニョゴニョ……」
「ん? 最後の方がよく聞こえなかったんだが……」
「ななななんでもないわ! さ、さぁ、早く祠を見つけないと、そろそろ寝る時間じゃないの!」
エカテリナの言葉を受けて、俺はハッとなった。
視界の端に表示されているリアルタイムの時間表示が、すでに深夜0時を回っていたんだ。
……うわ……明日って確か会議三昧だったんだよな……やばいな、このままゲームを続けていたら居眠りしてしまいそうだ……
とはいえ……
「確かにそうだけど……でもさ、せっかくみんなでイベントに参加しているんだし、今日くらいはもう少し頑張ってもいいんじゃないかなって」
エカテリナに向かって笑顔を浮かべる俺。
そんな俺を見つめながら、エカテリナも笑顔を浮かべながら頷いた。
「あ、ありがとうございます。わ、私も……旦那様と迎えたイベントなので、一緒にクリアしたいって思っていたので……と、とっても嬉しい、です」
その口調は、エカテリナと言うよりも小鳥遊のそれに近い気がした。
いつもゲーム内では、エカテリナになりきってツンデレプレイしている小鳥遊なんだけど……素の自分が思わず出てしまうくらい喜んでくれているってことなのかもしれないな……って、ツンデレな小鳥遊の方が素の気がしないでもないんだけど……
そんな感じで……お互いに見つめ合いながら、ちょっと良い雰囲気になっていた俺とエカテリナ。
頬を赤らめているエカテリナが、ゆっくりと俺に近づいて来て……頬を赤く染めながら、って、すごいなこのゲーム、肌の感じがこんなにリアルなんだ……って、思わずこの状態にはふさわしくないことを考えてしまう俺。
「あ……その……なんだ……い、今の俺は、ドワーフのフリフリなんだが……」
「べ、別に気にしないから……旦那様は旦那様なんだし……このゲームは、ここまでは認められているんだから……」
そう言うと、目を閉じるエカテリナ。
そんなエカテリナを前にして、思わずドキッとしてしまう俺。
そんなわけで……エカテリナの顎に手を当てて、少し上を向かせ、唇を近づけて……
「主殿~!」
そこに、最悪のタイミングで近寄ってきたのはラミコだった。
近づいてくる声を聞いた俺とエカテリナは、慌てて顔を離していった。
「主殿、祠を見つけたのじゃ! あっちにあったのじゃ!」
興奮した様子で、俺に報告しているラミコ。
よく見ると、その後方にイースさんの姿があったんだけど、
『ごめんね、止められなかった』
と、ばかりに、俺とエカテリナに向かって手を合わせながら頭を下げていた。
ってことは……イースさんにしっかり見られていたってことなのか!?
……なんていうか……その方が恥ずかしかったというか……俺は更に顔が赤くなるのを感じていた。
エカテリナも、結果的に邪魔をしたラミコを怒りたいものの、祠を見つけてきたこともあって、怒るに怒れなくてすっごく複雑というか、名残惜しそうな表情を浮かべながら俺の方をチラチラと見つめていた。
◇◇
ラミコの案内で、湖の中を移動していった俺達。
「あそこなのじゃ!」
先頭を進んでいるラミコが指さしたのは、滝のあるあたりだった。
滝の水が湖に流れ込んでいるためすごく泡だっている一角があるんだけど、その湖底近くに小さな祠があった。
「あんなところにあったのか……ラミコよく見つけたなぁ」
「ふふ~ん、妾はは虫類系のモンスターじゃからな。水中のは虫類系のモンスター達と話をすることが出来るのじゃ。それでの、祠がどこにあるのか教えてもらったのじゃよ」
胸を張りながらドヤ顔をしているラミコ。
……しっかりご飯を食べさせてやって、栄養状態を改善してやったら少しは大きくなるのかな……って、ついつい余計な事を考えてしまう俺だったんだけど……とにかく、祠へ向かって移動していった。
祠の中には、女神様の石像が置かれていた。
その石像は、リザード族の女神だけあって、頭部はワニな感じなんだけど体は人の女性の姿をしていた。
「……これがリサナ神なのかな」
その石像の前に、コインが一枚置かれていた。
そのコインをジッと見つめると、
『リサナバッジ』
って文字が浮かび上がった。
手に取って見ると、裏側に安全ピンみたいな物がくっついていて、確かにバッジ風になっていた。
パンパカパ~ン
「んあ!?」
俺がリサナバッジを手に取ると、周囲にファンファーレ音が鳴り響いた。
同時に、俺の周囲に紙吹雪が舞い散るモーションが発生していく。
そして祠の上に、
『ドルゴドムの試練イベント クリア』
って文字が浮かび上がり、七色に輝きはじめた。
「あぁ……これで、このイベントをクリアしたってことなのか……しかし、ドルゴドムって一体なんだったんだ……」
「あぁ、それでしたら……エカテリナさんが倒した湖の主がドルゴドムって名前だったみたいです」
「え? そ、そうだったんです?」
イースさんの説明に、思わず目を丸くする俺。
だって湖の主って、俺が放り投げたエカテリナが一撃で倒した相手だったわけで、正直そんなに強い相手には見えなかったというか……俺が唖然としていると、イースさんが苦笑しながら話を続けた。
「エカテリナさんが一撃で倒してしまったので雑魚っぽく見えまししたけど、あの湖の主、SSS級のモンスターだったんですよ」
「そ、そうなんだ……」
イースさんの説明を聞いた俺は、改めて目を丸くしてしまったんだけど……よく考えてみたら、SSS級のモンスターのラミコが苦戦していた相手だもんな……
「うん……改めて、俺の奥さんがすごい人なんだってことをつくづく実感したよ」
俺はそう言うと、エカテリナへ向かってにっこり微笑んだ。
「ありがとうエカテリナ。お前のおかげでイベントをクリアすることが出来たよ」
俺がそう言うと、エカテリナは口元を抑えながら肩を振るわせはじめた。
「……そ、そんな、お礼なんて……わ、私なんかただの廃プレイヤーなだけで……これくらい出来て当然みたいにしか言われたことがないのに……」
そんな言葉をブツブツいいながら、両手で顔を覆っているエカテリナ。
そういえば、こういったVRMMOみたいなゲームでは相手が見えないからってんで、マナーが悪い人が多いって聞いたことがあったな。
エカテリナの場合、無理をしてあのツンデレなキャラを作っていたのもあって、色々言われてきたんだろう。
イースさんも、そんなエカテリナの心情を察してか、肩にそっと手を置いていた。
「俺とお前は夫婦なんだし、ここにいるみんなは仲間なんだ。これからも一緒に楽しくやっていこう」
「うん……うん……」
俺の言葉に、素直に頷くエカテリナ。
そんなエカテリナに、笑顔を返す俺。
「さて、リサナバッジも手に入れてドルゴドムの試練イベントもクリアしたし、帰るとするか」
俺の言葉に、みんなも笑顔で頷いた。
最後に、改めてリサナの祠に向かって一礼した俺だったんだけど……
「……ん?」
俺は思わず首をひねった。
いや……あのさ……祠の中にあるリサナ神の石像の頭上に、
『リサナが仲間にしてほしそうに見つめている』
ってウインドウが表示されているんだけど……
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