第129話



 残った面子を見回していれば予定と違う事に気が付いた。


 彼らはどうしても早く試したかったのだろう。

 相当にテンションが上がっていたと見受けられる。

 だって、クレアに兵士を付けずに置いて行ったもの。


 なんてかわいそうな子。と憐憫の視線を向けた。


「なんだその腹立つ目は! 違うぞ!?

 この魔法があればここら辺の階層では何一つ危険がないからだ!」


 どうやら、話し合いの末の事だったらしい。

 クレアは「無茶はせんからいらぬとこっちから断ったのだ!」と声を大にして主張した。

 まあ、流石に自国の姫の事を忘れて置いて行く軍は早々居ないか。


「よし。じゃあ、折角来たんだからお前らも強くなっとくか?」

「はっ? 私たち?」


 ルナが素っ頓狂な声をあげて無理だと激しく首を横に振った。


「まあ、ちょっと待ってな」


 ここの魔物は狼系の魔物。

 割と押さえ込むのは面倒なので足を全て落として彼女たちの前にポイした。

 念のためで『アースバインド』を掛ければ完全に動けなくなったようだ。


「先ずはノアからだ。これで首を突き刺せ」


 一番ビビッてなかった彼女にミスリルの剣を渡して攻撃させるが、全然刺さらずに弾き返されてしまった。

「こ、こんなのどうやっても無理じゃないかな?」と困った様で首を傾げる。


「いや一先ず確かめただけだからそれでいい。

 次は纏いの練習だ。魔力をちょっと出して自分の周りに留めろ。服を着る感覚だ」

「あ、それは一応出来るよ。力仕事に便利だから覚えたの」


 他にもダメージアップに繋がるバフは全部教える。

 何度もやるのはかなり手間なので全員に魔法の講習を行う。そして習得させた上で俺のバフで上書きした。


「よし、これで刺さるはずだ。もう一度やってみろ」

「う、うん。わかった」


「やぁ!」と可愛らしい声を上げて首へと一突きすれば魔物は魔石へと変わる。


「これでノアたちは全員ここの魔物なら倒せる攻撃力を得た訳だ」

「えっ、私とエヴァはまだ何もしてないよ?」

「ルナちゃん、ノアが出来たなら私たちも出来る……はず」


「あ、なるほど。けど試させてくれないと不安だよ」と不安な顔を見せた。


「当然だ。切り付けて一撃で倒せるレベルになるまでこれを何度も繰り返す。

 次は一階に戻りオークで戦闘訓練だ。狼系は動きが速いからな」


 そう言ってやれば安堵した顔でやる気を見せていた。


「お前、凄く強かったのだな。どこまで行けるのだ?」


 攻撃されてもお構い無しに連れてきている様をみてクレアの態度が少し変化を見せた。


「今、四十三階層の殲滅が終わったところだ。

 目指すは三年以内に百階層って所だな」

「馬鹿を言うな。強いのは認めるがお爺様を越えるなどありえん」


 ……好意的に話しかけてきたからまともに応えてやったのに。


「あっそう……信じないなら最初から聞くな。まあいいや、敵持ってくる」


 もう本格的に無視するかなと思いながら、動けなくしたウルフをポイポイ積み上げていく。


 クレアは戦えてるので下の階層へと行かせて、ノアたちには何度も姫プをこなさせ、ミスリルを使わなくても切り殺せる様になるまで続けた。

 結構な数をやったのだが、ミスリルの剣を使わないで一撃というのは流石に一日じゃ無理だった。

 だが、ミスリルの剣を使えば切りつける方でも一撃だったのでかなかなりな成長を遂げたのは間違いない。


 一先ずの成果に満足してクレアを拾って村へと帰る。

 出迎えたペネロペとオーロラに話題の種として今日の戦果などを話していく。


「えっ!? ルナたちを戦わせたんですか!?」


 信じられないと責める様な視線を向けるオーロラ。


「いや、何しにダンジョン行くと思ってたんだよ。

 ダメならダンジョン行かせるなって。朝の段階で止めれば連れて行かなかったぞ」


 なんで皆俺が悪いみたいに言うの。

 安全はちゃんと確保したんだから文句言われる筋合いないぞ。


「フハハ、それについてはこいつの言うとおりだな。

 お前も行けば良かったのだ。もうお前はこやつらに一生敵わぬであろうな」


 クレアの言葉に唖然とするオーロラにルナが「ニシシ」と笑って袋に入った魔石を見せた。


「これは今日倒した分で、私たちにくれるんだって!」

「え? うそ……こんなに!?」


 驚いているが、言うほどはない。三つの巾着袋がパンパンになったくらいだ。


「おぬしは魔石どのくらい持っておるのだ?」


 なにやらクレアは単独で狩りが出来たのが嬉しかったようで、合流した時からご機嫌だ。


「えぇ、数えてないからわからない。多分車一台埋まるくらいじゃないかな?」

「ほう。そりゃ凄い。売りに行かんのか?」

「別に今のところ金なんていらないしなぁ。

 ああ、でもこっちで活動してるのに無一文ってのもあれだな」


 いや……よく考えれば折角神スキルを手に入れたんだし魔具やら野営セットやらと『アイテムボックス』に入れて置きたい物は結構あるな。

 車とか食材の調味料などは盗賊のアジトから頂いたが……


 うん? よく考えたら俺、金持ってるんじゃね?


「いや、待って。無一文じゃないかも」


 何でもいいから大切にしまってあるっぽい物を、とポンポンと頂いた中にもあるだろうし、彼らが腰につけていた荷物袋の中にも少しくらいは入っているだろう。


 早速、ペネロペを呼んで外の小屋に盗賊から貰ってきたものを全部出した。


「これ皆で仕分けしておいて。出てきた金の半分は村の運営資金にしていいから。

 まあ、大した金額入ってないかもしれないけどな」

「……い、いえ、一杯入ってますよ?」


 彼女は徐に一つの袋を開けると金貨が二枚入っていた。


「それは一杯なのか……?」村の運営費と考えればめちゃくちゃ少ない気がするが。

 まあ、まだまだ一杯荷物はあるんだ。

 最初からそのくらい出てきたって事は少しくらいは期待できるだろう。


 他の物も欲しいのがあれば村で適当に使って構わないと告げて部屋へと戻った。

 

 すっかり自室となった部屋の扉を開ければ、何故かノアがベットに座っていた。

 テーブルの方にはエヴァとルナが座っている。


「おう。どうした?」

「その、遊びに来たの。ダメ?」

「いや、全然構わないぞ」


「ルナに可愛いおねだりを披露されては断れないな」と冗談を言いつつも今日のダンジョンの話で盛り上がった。

 しかし、姫プに良くある戦闘を舐めてしまう傾向も見られた。

 なので死にたくなければ一撃で倒せる階層でしかやるなと強く言い聞かせる。

 それがダンジョンに潜っても生き残る鉄則で、守れない奴らは何時死んでもおかしくないのだと。


 他にも、あそこのダンジョンではノアたちが他の奴を育成することは出来ないことを念入りに告げておいた。

 そこでルナから「なんで無理なの?」と問いかけがきたので説明を入れる。


「俺の魔法は特別製だから倍くらいの効果があるからな。

 お前らの魔法じゃ最初から倒せる攻撃力に持っていけないんだ」

「そ、そんなに違うんだ?」

「ああ。ノアは最初の一撃を体感しているから魔法の効果がめちゃくちゃ大きいのはわかるだろ。

 だからもし他の奴を育てるなら移動が大変でも最初だけはもっと緩いダンジョンの一階層でやることだ。

 じゃないと剣が通らないから危険な目に遭うだけで加護は貰えない」


 エヴァの問いをそのままノアに振れば彼女は大きく同意していた。


「そう言うってことはさ、やっぱりずっと一緒には居てくれないの?」

「そりゃ無理だな。

 三年後まで鍛えてこの地域の強い魔物を倒したら、帰って結婚する予定だし」


「け、結婚!?」と驚く三人。


「いやいや、相手居るって言ってあっただろ」とノアの頭を撫でた。


「むぅ。あんなに激しいキスしたんだから責任取って」

「いや、あれはお前が布団に忍び込むから寝ぼけて……」

「「キ、キス!?」」


「うぅぅぅ……」とウルウルした目で見詰められた。

 応えて上げられないのでかなり心苦しい。


 ならばせめてと俺の過去を話し、心情的に納得して貰おうと皆とのことを話した。


「ちょっと待って。そんなに一杯居るなら良くない?」


 そう言ったのはルナだった。

 人事だと思って軽く言わないで欲しい。


「ダメだよ、俺が怒られるんだから。浮気するなって」


 めちゃくちゃ苛められるんだぞ。

 朝起きれば首を絞められていたり、布団に別の子を連れ込めば剣の鞘でぼこられたりしたのだ。

 今まで俺がされてきた事を話せば楽しそうに笑っていた。

 ははは、人の不幸は蜜の味ですよね。わかります。


「その、三年だけでも構わないって言っても……ダメ?」


 うん?

 エヴァ、ダメって何が?


「わたし、子供生むならカイトのがいい……」

「ちょっと! エヴァ!?」


 ノアが彼女を羽交い絞めにして部屋の端へと連行する。

 余りのカミングアウトに俺も面食らってしまった。


「モテモテだねぇ」

「フリーだったら間違いなく喜んで結婚していただろうな。皆可愛いから」

「オーロラちゃんを筆頭に?」

「え? いや……どうだろうな?」


「ふーん、どうせ私たちは彼女のおまけなんでしょ」と悪態をつくルナ。

 その時、後ろからノアに羽交い絞めにされて今度はルナも連行された。


 帰ってきたエヴァがベットの方に来て隣に座る。


「わ、わたし、顔は良くないかもだけど……体はそんなに悪くない、と思う……」

「いや、顔も凄く可愛いよ。

 けどね、もう相手が居るから裏切れないって話ね?」


「やだぁ!」とボディに飛びついてきて甘えん坊スキルを披露するエヴァ。


 や、止めろ!

 もう皆に怒られてもいいかな、なんて考えが過ぎるから止めてくれ。


 そう思うものの。いつの間にか俺の手は彼女の頭を撫でていた。

 可愛いはやっぱり正義だ。


 そして戻ってきたノアとルナ。


「ね、ねぇ、ノアが可笑しなこと言うんだけど……

 オーロラちゃんより私の方が可愛いって本気?」

「うーん。本気だけども、そういう比べる発言は止めようぜ。

 俺の美的感覚が皆とは違うってだけなんだし」


 ルナは「そっか、そうだよね」と思い改めている。


「えー、大丈夫だよ。

 オーロラちゃんだって女だけの時は『私が一番可愛いから仕方ない』って比べまくってるし」


 ノアの楽天的なのほほんとした声にエヴァもうんうんと頷く。


「……オーロラちゃんはいくらでも選べるからいい。

 でも私にとって最高の相手はカイトだけなんだもん、仕方ないの」


 結局膝枕の位置で落ち着いたエヴァが「えへへ」と顔を股にうずめる。

 これこれ、やめなさい。とトントンと肩を叩く。


 それを見たノアが「ダメだって。はい交代!」と反対から膝を使おうと頭を落としたらゴンと鈍い音が響いた。

 二人とも頭を押さえてうずくまる。

 全く、何をやってるんだとベットから移動してルナの対面に座った。


「わ、私の所に来た……」と信じられないといった面持ちのルナ。


「だ、ダメなんですか……」

「ち、違うよ違うよ! その、意図が気になるって言うか?」


 そんなのあいつらの誘惑に耐えられなくなるから逃げてきたに決まっているだろう。

 と言いたい所だがそれを言えば二人の攻撃が激化するのは必至。


「そんなの理由なんてない。今ここに座りたかっただけだ」

「ふ、ふーん」


 ベットから二人が口を尖らせてこっちをみる様が可愛い。モジモジしてこっちを見ているルナもめちゃ可愛い。

 やばい、脳がやられそう。これはもうそろそろ切り上げねば。


「さて、今日はそろそろお開きにして寝るぞ」

「明日はどうするの?」

「一先ずお前らが自力で狩れる様になるまでサポートしてやろうと思ってる。

 だから明日も一緒にダンジョンだな」


 素直なルナが「わかったぁ」と元気に返事を返すと二人に「ほら、行くよ」と声を掛けて出て行った。


 彼女たちが出て行った後、ベットに横になる。

 ムラムラさせられた所為で皆の所へ戻ってしまおうかという思いが過ぎった。


 だが、全てを知られたら激怒されるだろう。


 ならばいっその事ムラムラを解消してくれるお店でも行くか。

 うん、それならば問題ない気がする。後腐れないし。

 まあ問題ないと言ってもバレたら怒られはするだろうが、お店なら直ぐ許してくれるだろう。


 そうだ。

 それをルナたちにもオープンにすれば、愛想つかして変な事を言い出さないんじゃないか?


 となると、そろそろ何か理由をつけて街に行くべきだな。

 ルナたちを自立稼動させてからの方がいいか。もし夜のお店に嵌っても通えるし。


 ふふふ、完璧だ。

 どうだレナード、俺は大人な男だろう?


 けど、そういうお店のマナーとか一切知らんが大丈夫だろうか……

 あいつからもうちょっとお店の話を聞いておけば良かったか?

 いや、どちらにしても人族とは別物だろ。

 そんな事をぐるぐると考えつつも眠りについた。

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