第116話



 予定地点へと到着し、うちの陣形だけ説明して離れて見学する様お願いした。

 大体の話し合いが着き、少し待った頃に斥候の皆さんが帰ってきた。


「ハイオーク、七百! オークジェネラル、四!」


 後ろからどよめきが走る。


「聖人様! 我らをお使い下さい!」


 マリンさんとハツさんから手伝うという声が飛ぶが「予定通りなんで大丈夫です」と返して戦いがスタートした。


 俺は参戦していない。

 もしもの時の回復役だ。

 危なそうな所を回り即座に支援回復するのが最終的に一番安定すると思う立ち居地だったのだ。


 中心地で後ろから眺め、誰かがダメージを負えばスキルを使った移動で一瞬で駆けつけるのだが、慣れてしまったのか最近誰も喰らわない。


 まあ、だからと言ってじゃあこの役目が要らないなんて話にはならないのだが、あそこのマスター働かないとか思われないといいな。


 そうそう。この七日でマイケルたちは引かずにその場で群れを叩けるほどになった。強くなったのもあるが、同じ敵なので慣れもきたのだろう。

 軽々とまでは言わないが、仕切り直しが必要ないほどには危なげがなくなってきている。


 今回こっちの受け持ちはぬしが二体なので主力も雑魚殲滅に加わっていて軽く圧倒している。


 こんな感じで七日間、毎日安定した狩りを行っていた。


 何より狩りを安定させたのはステラが勝手をしなくなったことだった。

 アンドリューさんにこんな感じでというだけで後は任せてしまっていいのだから大変楽になったものだ。


「こっちは終わったぜ?」


 レナード、アレク、リズの三人がこっちに歩いてくる。

 アレクとリズは強い希望により度々ジェネラル討伐の方に入っているので慣れたものだ。


「こっちも終わりましたよ」 


 残るはホセさんのみか。単身で相手してるから仕方ない。というかあれは見せる為にやってるのかも。なんかスキルが来るのを待ってるっぽいし。


「ああ! そうだった! スキル攻撃を見せるんだったね?」


 アンドリューさんも忘れていたようで「もう一体連れてこようか?」と問うがホセさんが見せている以上問題ないだろう。


 問題ないと伝えていたその時、わずかな発光とともにオークジェネラルとホセさんの体が入れ替わる。


「あっ! あれね!?」

「そうそう、あれです。

 一応スキル使うときの発光があるのでギリギリですが回避はできます」

「あれは……俺じゃ厳しそうだな」


 マリンさんと一緒に居た特級の騎士が眉をひそめた。

 うん。ちょっと厳しくはあるけど、見慣れれば出来る。そんな感じだ。

 初見で特級が避けるなんてのは普通無理だ。


「慣れるまで基本はマリンさんに持ってもらうしかないでしょうね」

「慣れる頃には終わりそうだけどね」


 そんな雑談を交わした後に索敵第二段を開始する。


 今度はマリンさんやハツさんをオークジェネラルの方へと組み込み、他はハイオークへと当たって貰う形だ。

 そこからは個人の希望で配置を変えることを伝えての再スタート。


 開始早々にスキルを使われ、マリンさんとヘイハチさんが一度喰らったが即ヒールで回復してあげれば討伐することができた。


 だがそれを知った騎士たちは尻込みしてジェネラルへの参戦希望者は出なかった。


 その後、この機に索敵技術を学ばせたいとマリンさんからの要望があり、数日かけての合同索敵が行われたり、とうとう侍からの参戦希望者が出たりと少しづつ形を変えながらの殲滅作戦が行われた。








 そして六日目の昼、とうとう百四十六体目の討伐が終わり、残りの一体が見つからないという事態に陥った。


 最終手段として、アカリに通信を入れて何処にいるのかを聞いて欲しいと頼み、その結果、洞窟の中で進化しようとしている状態な事がわかった。


 進化にはしばらく時間が掛かり無防備になるらしい。

 アカリからその洞窟の場所を聞き、俺たちは即座に向かう。


「皆さんは周囲の殲滅をお願いします。ぬし討伐者は全員中へと特攻します。

 ただ、状況を見て引く可能性もあることを忘れないで下さい」


 ハイオークを蹴散らしながら洞窟の奥へと向かう。

 ただの洞窟なのでそこまで深くはない。直ぐに目当てのものを発見した。 


 最奥で座り込み、寝ているのか目を閉じているようだ。

 大きさはジェネラルと変わらないが、体の色がところどころ変色している。


「ど……どうする?」

「なんか壁も脆そうだし、ここで魔法を連発する訳にはいかなそうね」

「そんなのんびり話してて大丈夫なのか?」


 流石にうちの皆も困惑し、行動が出来ないでいる。

 大きさからして四方を囲んで攻撃するにしても四人くらいか。


「とりあえず切りつけてみる。

 起きないようならホセさん、アンドリューさん、マリンさん、アーロンさんで全力攻撃してください」


 恐怖を押さえ込んで頷き合い、俺は圧縮した纏を使って『飛燕』で切りつける。


「グオオオオオオオオオ」

「くそっ! 起きやがった……無防備なんじゃねぇのかよ!!」


『飛燕』は確実に入ったが、目を覚まし起き上がってしまった。


「主代われ! わしが行く!」

「全員退避! 囲めない場所でやりあう必要はない!!

 今すぐ退避だ! ホセさん、少し時間を稼いだら俺たちも出るよ」

「了解した! 任せいっ! 『一閃』」


 ホセさんは言いながら飛び込み切りつけ後ろに回った。

 俺も意識をこちらに向ける為に攻撃しようとしたのだが、背後に気配を感じて振り返ればまだ、皆その場所にいた。


「おい!!! さっさと行け!! 俺たちが出れねぇだろが!!!」


 何をぼさっと見てんだと怒鳴りつけ、ホセさんの方へと向いたオークを切りつける。

 やはり、ジェネラルとは違う。圧縮した纏いを使っているのに通常攻撃では皮膚を少し切り裂く程度しかダメージが入らない。


「ホセさん、もういいよ。一先ず出よう」

「うむ。了解した」


 ホセさんへと意識を強く向けているので、もう一度『飛燕』で後ろから切り裂く。


「グオオオオオ」


 振り向き様に腕を振り下ろす様が見えた。

 速いっ!


「『一閃』からの『一閃』」


 二度目の『一閃』がホセさんと被りオークキングの左右からすり抜ける同時攻撃となった。

 これで二人とも洞窟の入り口側に戻れたので後は走るだけだと一目散に退避した。


 俺たちのスキル攻撃で漸く多少肉を切り裂けている状態。

 これはアンドリューさんとマリンさん辺りじゃないとダメージが出ないだろう。

 その前にこいつとやりあうのか?

 いや、スピードで勝っているかもわからないんだった。


 失念していた事を思い出し振り返れば、飛び付く様に迫り来るオークキングの姿があった。


「『ストーンウォール』『障壁』」


 張った直後に破壊される音が響く。

 一応攻撃は回避できたが、これは大変宜しくない。

 これ、無理だってなっても逃げれないんじゃないか?


 てかもう頭の中でこれは無理だと警鐘がなっている。

 スキル攻撃であの程度ってどれだけ切り付けなきゃならねぇんだ?


 考えが纏まらないままに洞窟を抜けた。

 アディたちが剣を構え出迎えようとしている。

 即座に声を張り上げた。


「全軍撤退!! オークキングだ! 撤退しろぉ!」

「カ、カイトくん!! 後ろ!!」

「『一閃』」


 振り向きもせずに『一閃』を移動に使えばギリギリのところで回避できたみたいだが、スピードで負けてると話す時間もないのかよ。


「主、わしが持つ、ここは引くのじゃ!」

「ダメだ! 俺には人に言っていない切り札がある。

 人前じゃ使えないもんだからお前たちが退避しろ!

 これは主としての命令だ!」


 くそっ、ホセさんでもダメだ、相手が出来ていない。


「『ファイアーボール』」


 二十ほど連続で打ち出しながら距離を取る。

 ダメージをお構いなしにこちらに突っ込んでくる様に恐怖を覚えるが、ぐっと堪えて移動スキルで飛び回りながら、皆から離れる。


「そのままシーラルへ戻って待機だ! 俺も後から行く!」


 何とかそう声を上げれば、動かないものの追いかける様子もなかった。一安心してキングを引き連れて西へ西へとひた走る。

 後ろから一方的に攻撃されるというのは物凄く怖い。こんなことなら振り返って戦いたいが、まだ距離が短すぎる。

 どうせ高確率で殺されるなら、めちゃくちゃ遠くに置いて着てやる!

 けど、死ぬのは怖いなぁ……


 そう思った瞬間、衝撃で意識が飛びかけた。

 な、何を喰らった……


 一瞬、回復する事も忘れてそんな事を考えていた。


 っ!? 『ヒール』!


「かはっ! くそっ! はえぇんだよ!! こっちは切り札の纏い使ってんだぞ!? 『一閃』」


『ファイアーストーム』を後ろに撒きながら再び走る。

 多分、まだ五分程度も経っていないが、そろそろ五分の一近くは消費してそうだ。


 チラリと後ろを確認する。

 火を避けて回り込もうとしているのを見て安堵の息を吐いた。

 回りこもうとしている方向に『ファイアーストーム』を追加して再び火であぶる。


 火が苦手なのだろうかと、同時に『ファイアーボール』も展開して当てまくる。

 頼むから何かの間違いで死んでくれと。


 火を嫌がってくれたお陰で少し距離が出来た。消費を抑える為に一度魔法を止めて近づかれるまでダッシュする。


 そろそろ斥候すら行ったことの無いラインに入る。そこを越えてしばらく行きたいところだけど、行けるかね?


『ファイアーストーム』!


 よし、これでまた余裕が―――――――


 振り返ればオークキングの拳が目の前まで迫っている。


「な、何でっ!? 『ヒール』『ヒール』『ヒール』『ヒール』」


 火を避けずに真っ直ぐ特攻してきたのか!?


 喰らう瞬間に合わせてヒールを連発する。

 己の頭の骨が砕ける音を聞いてしまった。


 だが即回復できたので、吹き飛ばされながらも空からの『ファイアーボール』を連発で放てた。

 避けるつもりは無いのか当然の様に直撃する。 

 炎に巻かれることを嫌がり、手で振り払おうとはしているが足を止める気配はない。


 クソっ! 相変わらず止まる気配がないじゃねぇか!

 落ちる直後に逃げるか避けるかしないと死ねるなこれ……


 ミスるなよ俺!


 猫の様にして空中でクルリと回転して足から落ちた瞬間『一閃』にて再加速を試みる。


 おお、できるもんだな。

 俺、スゲー!


 勢いに足を滑らせながらもバランスを取りつつ走り出す。


 攻撃が当たったことに味を占めたのか、今度は『ファイアーストーム』を撃っても気にせず特攻してくるようになってしまった。

 仕方なく『ファイアーボール』に切り替え、攻撃を喰らうギリギリの所で『ストーンウォール』と『障壁』とダブルで展開して攻撃を防ぐ。


 いつの間にか地面の色が赤茶色から緑色に変わっていた。

 恐らくは綺麗な草原なのだろう。


 だが、見渡す暇などない。


「見切ればいいんだよ、見切れば。こいやおらぁぁぁ!! 『一閃』」


 こいつに使える攻撃スキルと言えばこれくらいしかない。

 スキルを放っても大したダメージも無ければノックバックも無いので攻撃と同時に逃げるくらいじゃないと即潰されて終わる。


 だから今、このタイミングで……『一閃』!!

 カウンター気味に放たなければ次の瞬間あいつが目の前にいるという状態になる。


 怒り狂い、こちらへ走るオークキングを見据えながら、現実逃避のようにひたすら思考を回す。


 ダメージが割りと高めのスキルなはずなのだが、ちょっとした切り傷を作ったという程度だ。

 本当に、倒せるのかこんな魔物。


『一閃』!!!


 いや、無理だろ。

 ボスクラスはぼろぼろになってからも当たり前のように動く。

 それがまだピンピンしているのだ。


『一閃』!!!

『一閃』!!!


 一番現実的なのは限界まで遠くへ連れて行き、死に戻りして強くなってから再チャレンジだが……

 懸念事項がいくつかある。


『一閃』!!!


 生き返る場所がその場だったら?


『一閃』!!!


 真っ直ぐ人里に向かわれて強くなる時間が稼げなかったら?


『一閃』!!!


 皆が俺を探しに来てしまっていたら?


 どれも笑えない状況だ。


 だからといってどうにか出来そうもないのだけど……


『一閃』!!!


 ここからでも辿り着けるならそれは人里の方向がわかるということだろう。

 ならばこれ以上引いた所で大した差はない。

 生き返る場所がここであっても可能性を残す為に限界までやってみるしかねぇな。

 そうすりゃ、仮に皆が来たとしても生存の可能性が残る。

 運が良ければ魔力も全回復して復活できるかもだしな。


 そう。やるしかないんだ。やるしか。

 逃げられない以上、腹を括れ。

 ビビリ過ぎは成功率を下げる。

 考えずにやれることをやるんだ!


 心を奮い立たせ『一閃』で飛び回りながらも、目の前の化け物を見据えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る