第67話 こんな奴

「なんか納得いかねぇなぁ」

池崎くんは高坂先輩が戻って来たことに少し不満そうでした。

2年生部員の皆さんが高坂先輩と談笑している中、

池崎くんはそっと先輩に近づいて、先輩の袖をくいくいと引っ張り

「児玉さん、なんでこんな奴連れてきちゃったんっすか?

 せっかく試合出られるはずだったのに・・・」

と小声で言いました。

「良いんだよ。高坂くんが入ってくれた方が、絶対チームは強くなるんだから」

先輩はやっぱりチームのことを考えていました。

きっと先輩だって試合には出たいはずなのに。


「よーし!練習始めるぞ!」

松島先輩の号令と共に、練習が始まりました。

高坂先輩もジャージ姿で、部室にあったグローブで練習に参加されました。


「さぁこーい!」

私が言うのもなんですが、高坂先輩はとてもブランクがあるとは思えない

素晴らしい動きで、次々とノックを捌いていきます。


「次!ライト!」

「さぁこーい!」

池崎くんがフライを捕球しました。

「四つ!」

高坂先輩の声が響き、池崎くんは中継に入った高坂先輩に向かって返球をしました。

「やべっ!」

池崎くんは力み過ぎて、高坂先輩の足元に投げてしまいました。

高坂先輩はショートバウンドを何事も無かったかのように捌き

素早くホームへ返球しました。


「いやぁ、高坂さんめちゃめちゃ上手いっすね!」

練習後、池崎くんが高坂先輩に近づいて言いました。

「そんなことないさ。池崎も良い肩してるじゃん」

「そうっすか」

さっきまで、“こんな奴”呼ばわりしてたのに、池崎くんは本当に調子いい人です。

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