第56話 キャプテン


グラウンドに戻ると、みんながグラウンド整備をしていた。

いち早く僕に気付いた池崎くんが

「児玉さん!どうでした?」

僕は黙って首を横に振った。


「いいんだよ」

松島くんが言った。

しばらくみんな黙ってその場に立ち尽くしていた。


沈黙を破って、松島くんが口を開いた。

「みんなで話し合ったんだけど、お前、キャプテンやらないか?」

僕は一瞬、松島くんが何を言っているのか理解できず、ボケーっとしていた。


キャプテン、僕が?えっ?はっ?

「はぁーーーーーーーーーーっ!?」

ようやく言われていることの意味を理解した僕は、

驚きのあまり大声を上げてしまった。


「な、なんで、僕?おかしいでしょ。こんなへたくそがキャプテンなんて」

「そんなの関係ないっすよ。人格が重要なんっすよ」

池崎くんが何だか偉そうに頷きながら言った。続いて大村くんが

「そうですよ。今のこの状況でキャプテンできるの、児玉さんしかいないって

 先輩方もおっしゃってますし」

「いやいやいやいや。おかしいって。松島くんは?絶対、松島くんでしょ」

僕は間髪入れずに言った。すると松島くんが

「俺はダメだ。上山のことは俺にも責任がある。

 そんな奴にキャプテンをやる資格はない」

「いやいや。そんなことないって。絶対、松島くんがやるべきだって」

みんななぜか僕を見ている。おかしい。絶対におかしい。


「いいじゃないっすか。やってくださいよ児玉さん」

池崎くんが追い打ちをかけてくるので、

「ダメ!絶対にダメ!池崎くん、先輩の言うことが聞けないの!」

僕は困り果てて、柄にもなく先輩風を吹かせてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る