第54話 努力はします


「俺達は別に構いません」

大村くんが言いました。

池崎くんは何だか偉そうに腕組みをして頷いています。


「俺からも謝らせてくれ。あいつを、上山を止められなくてすまなかった」

そう言うと、松島先輩は1年生部員たちに向かって、深々と頭を下げました。

「やめてくださいよ!」

池崎くんが松島先輩に駆け寄り、体を起こそうとしましたが

松島先輩はしばらく頭を下げていました。


「もう良いですって。頭上げて下さい」

大村くんがそう言うと、松島先輩はようやく頭を上げました。

「そうですよ。松島先輩のおかげで丸く収まったんですから」

池崎くんの言葉に

「いや、俺は何もしてないさ。上山が自分で決めたことだ」

松島先輩はもう誰もいない部室の方を見つめて言いました。


「それからもう一つ、無理な頼みとはわかってはいるが、

上山を、あいつを許してやってくれないか。

どんなに時間が掛かっても良い。頼む。

俺が上山の分も謝る。本当にすまなかった!」

そう言うと、松島先輩は更に深く頭を下げました。

私は思わず涙があふれてきて、止まらなくなってしまいました。


「努力はします」

しばらくして、大村くんがボソッと言いました。

「そんな簡単には許せません。でも、許せるように努力はします」

大村くんの言葉に、松島先輩は頭を上げ

「ありがとう。すまない」

「いいなぁ。男の友情って。松島さんかっこいいっす。

 俺はもう今までのことなんか、何も気にしないっす」

池崎くんは顔をくしゃくしゃにして、泣きながら言いました。

松島先輩は少し笑いながら

「池崎、ありがとう」

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