第52話 やめだ、やめ


「あっしたっ!」

練習が終わり、監督がグラウンドを後にしました。

1年生部員が一気に減ってしまい、監督から何かお話があるかと思いましたが

監督は何もおっしゃいませんでした。

1年生部員たちはうな垂れていました。


「よーし!今日は誰からだ!」

金子先輩がニヤニヤしながら、ノックバットを回していました。

「金子!ちょっと待て。やめだ、やめ」

上山先輩の言葉に、全員が驚きを隠せませんでした。

先輩はポカーンとして、上山先輩を見ていました。

松島先輩はじっと上山先輩を見つめていました。


「やめって、どういうことだよ」

金子先輩は全く状況が飲み込めない様子でおどおどしていました。

「やめって言ったらやめだ。もうこんな奴らに付き合ってられるかよ。

 ちょっとしごいたくらいで、次から次へと辞めていきやがって」

全員が信じられない様子でお互いに顔を見合わせ合っていました。

松島先輩だけはじっと上山先輩を見つめていました。


「俺、辞めるから。

 後は勝手にやってくれ。監督にはもう言ってあるから」

そう言うと、上山先輩は部室の方へ歩き始めました。

全員が何が起こったのか理解できず、ただ上山先輩の後ろ姿を追っていました。


「上山!」

松島先輩が呼びかけました。

「じゃあな。精々頑張れよ」

上山先輩は振り返らずに、手を振って、そのまま歩いて行きました。


「おい!待ってくれよ!どうしたんだよ!」

金子先輩が上山先輩の後を追いました。


先輩は心配そうに上山先輩を目で追いながら、松島先輩に近づいて言いました。

「松島くん。何があったの?これで良いの?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る