第31話 まだまだ!


「池崎くん!」

僕は思わず池崎くんに駆け寄ろうとした。

池崎くんは顔を押さえて、うずくまっている。

他の部員たちも心配そうに池崎くんを見ている。

松島くんも素振りを止め、池崎くんを見ている。


「児玉!待て!」

上山くんが僕を制止し

「池崎!もうおしまいか?」

池崎くんは顔を押さえながら立ち上がり

「まだまだ!」

「よーし!いい根性してるじゃねぇか。

 浅野!続けろ!」

上山くんの言葉に、浅野くんは戸惑いを隠せない様子。


「さぁこい!」

池崎くんの声に、浅野くんは少し弱めの打球を打った。

「浅野!ビビってんじゃねぇぞ!」

上山くんが怒声を浴びせた。


「さぁこい、さぁこい!」

池崎くんは一層、声を張り上げた。

浅野くんは思い切って強い打球を打った。

痛烈なライナーが池崎くんの顔面目掛けて飛んでいく。

「危ない!」

僕は思わず声をあげた。

池崎くんは目をつぶって、グローブを顔の前に出した。


バシンッ!

全員がかたずを飲んで、マウンド上を見つめている。

池崎くんはグローブを顔の前に出したまま、固まっている。


打球は池崎くんが出したグローブに収まっていた。

「やったーっ!」

大村くんが声をあげた。

池崎くんは信じられない様子で、何度かグローブを見た後

笑顔を浮かべ、誇らしげにグローブを掲げた。

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