競プロ部精進編

12. 中間テストって何ですか?

 競技プログラミング部の部室、いつもの風景に、私と早希、玲奈、枝刈先輩の4人がいる。時刻は昼過ぎ。今日はもう授業がない。つまり、午後は部活がやりたい放題ということだ。


「ということで今週は競プロの問題を解きまくります!」


 私は宣言した。生まれて初めて競プロの問題をACしたあの日から数日経っても、私のテンションは高かった。私は問題が解けたときの達成感と喜びを知ってしまったのだ。脳が震えるあの感覚は何度でも味わいたいと思う。家に帰ってからも競プロの問題を解きまくっている。私は競プロにハマっていた。


 そんな私に対して、早希と玲奈、枝刈先輩は何とも言えない表情を浮かべていた。


 早希が言った。


「中間テストの勉強はしなくていいのかよ? 赤点取ったら補習だぞ、その間部活も参加できなくなる」


 早希の言う通り、今は中間テストの二週間前である。授業は午前中で終わり、午後はテスト勉強のために空いている。そんなことは私も分かっている。


「分かってるよ、赤点を取らなきゃいいんでしょ? 大丈夫、私これまで赤点は取ったことないから」


 私は胸を張って答える。テスト勉強はほどほどにして、早く競プロがやりたいのだ。そもそもテストなんてくだらない。あんなもので何が測れるというのだ。


 そんな私を見て、枝刈先輩がため息をついた。


「小流、一応聞いておくが、うちの高校では何点取ったら赤点か知ってるか?」


「え? 30点未満ですよね?」


 私が当然のように答えると、またしても枝刈先輩はため息をついた。


「残念だが60点未満で赤点だ。勉強しないと普通に赤点取るぞ」


「……60点……うそでしょ……」


 私は驚きを隠せなかった。目の前が真っ暗になる。60点って結構な高得点じゃないか。私は中学生時代を思い出す。60点でも喜んでいた気がする。しかも中学よりも高校の方が勉強は難しい。それなのに60点も取らなきゃいけないなんて、あんまりだ。


 勉強しなければいけないのか。私は競プロがやりたいのに。競プロがやりたいだけなのに。勉強が邪魔をする。いつだってそうだ。やりたいことはやりたいときにできない。それが人生だ。


「まあ、勉強してから競プロもやればいいんじゃない? 私も教えてあげるし」


 枝刈先輩がそう言ってくれる。さすが先輩だ。


「そうしようぜ、時間はたっぷりあるんだしさ。それに勉強するっていっても授業の復習をパパっとやるだけでどうにかなるでしょ」


 天才少女である早希がそう言った。


 早希は学年トップクラスに頭が良い。たしかに早希ならば授業の復習程度で赤点回避くらいは余裕かもしれない。しかし、私はそうではないのだ。授業の内容は半分も理解できていない。一から教えてもらわないといけないかもしれない。あれ? 私、やばくない? そういえば玲奈も勉強はできる。枝刈先輩も頭が良い。そうなると、勉強ができないのは競プロ部で私だけだ。


 私は泣きそうになった。


「……私だけ、赤点取っちゃうかも……みんな、ごめんね……」


「だから赤点を取らないために勉強しとこうぜ」


「……うん……」


 それから三時間、私はみんなに勉強を教わった。




◆◆◆◆◆◆




「よし! 今度こそ競プロをやるよ!」


 私は元気になっていた。もう勉強は終わったのだ。もちろん赤点回避のためには明日以降も勉強しなければいけないが、とりあえず今日の分はもう終わったのだ。


 私はデスクトップパソコンの電源を入れる。


「それで今日はどうする? コンテストの過去問か?」


 早希がパソコンを立ち上げながら尋ねてくる。


「うん、過去問を解きまくろう。今週末にコンテストもあるし」


 私がそう答えると、枝刈り先輩が何かに気がついたように言った。


「ああ、そうか。次のコンテストが初めての参加なんだっけ?」


「そうなんです。今からちょっと緊張してます」


 私と早希、玲奈は今週末の土曜日にあるコンテストに参加する予定だ。三人ともそれが人生初のコンテストということになる。初心者用のコンテストだが問題は難しい。過去問を解いて練習しておかなければならない。


 私はふと思いついて枝刈先輩に尋ねた。


「問題は全部で8問ありますけど、何問くらい解ければいいんでしょう?」


 枝刈先輩は「うーん」と少し考えてから答えた。


「3問解けたらいいかな。4問解けたら上出来」


「なるほど。ちなみに先輩は何問解けるんですか?」


「前回のコンテストでは7問目まで解けたね。だから次の目標は全完」


「全完?」


「問題が全部解けたことを全完って言うんだ。一問解けたら1完、二問解けたら2完とも言うね」


「じゃあ私たちは3完か4完が目標ですね」


「そういうこと」


 ということは、私たちは過去問の3問目か4問目までを解いてみればいいということだ。


「早希、玲奈、今から一時間で前回コンテストの4問目までを解いてみて、その後で意見交換しよう」


「了解」


 早希と玲奈は頷く。


 それから一時間、私たち三人は問題に取り組んだ。


 枝刈先輩がパソコンをいじりながらその様子を見守っていた。


 そして、過去問の結果は…… 




◆◆◆つづく◆◆◆

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