第23話 神との力の差

 相手は格上、というか三千世界最強。

 あるのは神様間の順位のみ。

 亜神の俺は底辺ランク。というか亜神の中でも実力は底辺。

 ただ喧嘩が上手なだけなのだ。

 どうするかと考えた瞬間、光が俺に注がれる。

 じゅっという音がして蒸発。

 電気の亜神なんかじゃない本物の光速。

 避けることなんかできるはずがない。

 ワンパンKOである。

 だけど次の瞬間、俺は意識を取り戻す。

 体も無事だ。

 光の神がつまらなそうな声を出す。


「脆弱にもほどがある。暇つぶしにもならん」


 つまりだ。

 光の神は俺を殺して生き返らせたのだ。

 びきりと俺のこめかみに血管が浮かんだ。

 あくまで物理的存在の亜神と神の間に抗いようもない実力差があるのは当たり前だ。

 それはわかっている。わかっているが……むかつく。

 命まで自由にしていいと思ってやがるその態度が許せねえ!

 絶対に攻略してくれる!


「その顔……まだ戦う意思があるようだな。生意気な。かかって来るがよい」


 あーあーあーあーあー!

 やるぞ! やってやるぜ!


「水よ! 万物を癒やす水よ! 我が祈りに答えたまえ! ただ純粋にただ純粋にただ純粋に!」


 乱反射させて散らしてくれるわ!


「愚かな。我は太陽と同一の存在。その程度で防げる道理はない」


 じゅっ。言葉通り俺は水ごと消滅。

 太陽に放り込まれりゃそりゃ蒸発するわ。

 そして前回と同じようにポップした。

 あはははははははは! コケにしやがって!

 決めた! 絶対に攻略するまでやめねえ!


「闇よ!」


「愚か者」


 じゅっ!


「月よ!」


 じゅっ!


「邪神よ。何よりも汚らわしきものよ」


 じゅっ!


「アデルの正体を知っているにも関わらず邪神と呼ぶか。なんと愚かな子だ」


 そのとおりでございます。

 言葉もございません。


「神の力を借りて神に挑む。なんと愚かなのだろう。勝てる道理などありはしないのに」


「確かに。光の神様はさきほどから詠唱してないですもんね」


 ですよねー。本当にそのとおりですよねー。

 呪文は神が片手間で力を貸してくれるだけだ。

 力そのものに勝てるはずがない。


「ちょっとタイム」


「好きにしろ。だが次に退屈させたら人間は皆殺しだ」


 こめかみに血管が浮かんだ。

 誰が殺させるか!

 俺は深呼吸をする。

 相手のペースに飲まれるな。

 問題点をあぶりだせ。

 そもそも勝負にすらなってない。

 なにが問題だ?

 それは単純な速度だ。

 光の神は詠唱しない。

 力も使い放題。

 だから一撃で殺される。

 なぜ……?


【おーい、聞こえますか?】


 お、おおおおおお! 賢者ちゃん!

 ちょうどよかった!


【通信回復しました。現在ご主人様は存在をロストしてます。どこにいるんですか?】


 たぶん神の国。光の神の前。

 今戦ってる最中。

 でも相手にすらならん。

 虫と人間よりも戦力差があるのよ。


【で、しょうね……さすがに今回ばかりは勝てる気がしません】


 でもさ、ずるくね?

 無詠唱というか詠唱時間無しで太陽光照射だぜ!

 どうやって避けるんだよと!


【無詠唱……詠唱時間なし……なるほど。検索します】


 森羅万象。

 アホみたいに時間がかかるデータベースだ。


【検索しました。管理者権限の付与だそうです】


 うっわはやい。

 え?

 管理者権限あるの?

 じゃあ一時的な管理者権限の付与ないの?


【一時的なのはありませんが、管理者になることはできます!】


 よっしゃ管理者になる方法は?


【……え? 嘘】


 やめて不安になるから。まじでやめて!


【……えっと、落ち着いて聞いてくださいね。管理者になるには……死ぬことが必要です】


 は?


【死ぬことが必要です】


 はいいいいいいいいっ!

『俺は死ぬ。だけど最後に立っているのは俺だ!』

 って言ったけどマジでそれやるの!?


【亜神は功績を積み、人として死ぬことで神になるそうです】


 功績積んでないよ。


【そ、それは、ほら、いつもの気合と根性で……】


 あかん……。

 賢者ちゃんが成功可能性の%を提示できてない。

 つまり無理ゲーなのだ。

 0%なのだ。

 だが死を乗り越えなければ勝つ可能性は0%。

 人類は、いや……地上の生物のほとんどが絶滅する。

 やるか……やっちゃうか?

 あはははははははは!


「光の神よ! これが俺の覚悟だ!」


 俺は肉を、外部ユニットを呼び出す。

 普段はスペアとして保管していた肉。

 それに自身を取り込む。

 俺は一瞬で消化されていく。

 死体も残さない。

 なんか昔のアニメにあったなそういうの。

 そんなくだらないことを考えた瞬間、俺の意識はぶつりと切れた。


 だけど俺がその程度で終わるはずがない。

 なぜなら俺は宇宙を飲み込む神話生物。

 ……じゃ、なくて愛と正義のヒーローである。

 やたら眠い……眠い……ねむ……。俺が世界に溶けていく……ってそんなんあるかー!


「再起動じゃぼけえええええええええええっ!」


 俺は気合で起きる。

 ああ……非論敵極まりない。

 だけど気合と根性で蘇ってしまった。

 ふう……今回は……やばかった。マジで死ぬ寸前……あ、死んだのか。

 俺はスライム状の肉塊に……と思ったんだけど、死ぬ前と同じ姿。

 戦闘形態の中のコアユニット。ただの人間のガキのままだった。


【聞こえますか! ご主人様は管理権を得ました! 神になりました!】


 おうよ。

 なんの神かわからねえが、復活したぜ。

 俺は戦闘形態の手を見る。


「なにも変わらねえじゃん」


 そうつぶやいた瞬間、光が注ぐ。

 だが変化はあった。

 時間が止まっていた。

 いや光は俺に突き進んでいた。

 俺は手を前に出す。

 その途端、時間はもとの速さに戻る。

 どんっ!

 光は曲がり、俺の横を焼いた。

 たとえ直撃でなくとも一撃で蒸発していた俺は……無傷。

 傷一つつかなかった。


「ほう、神になったか。面白い」


 あー……なるほど。

 こりゃ説明できないわ。

 曲がれって思うだけで物理現象がネジ曲がるし、そもそも思考スピードが段違いだわ。

 とうとう俺は常に欲しがっていた絶対的な速さを手に入れたらしい。

 ここで俺は理解した。

 この力は危険だ。

 なぜアデル様が俺を助けようとしたら山の生物が皆殺し状態になったのか?

 今ならわかる。

 アデル様は最大限手加減をしていた。

 だけど神の力は強大すぎる。

 ちょっと力を使っただけでもあれほどの被害が出るのだ。

 力そのもの。そう力そのものなのだ。

 手加減などできるはずがない。

 よく山を噴火させなかったなというレベルなのだ。

 神になったばかりの俺でもその力は強大。

 トゥオーノですら塵芥と変わらない。

 光の神も同じだ。

 人間を絶滅させたいのではなく、「絶滅かなにもしないか」しか選びようがないのだ。

 そりゃ使徒という代役立てますわ。細かい作業できませんわ!


「さあ、かかってこい。力を見せよ、新たなる神よ」


 少しだけ光の神に同情したが、今は敵だ。

 そう、俺は光の神をぶちのめすしかない。

 俺はまだお釈迦様の手のひらから出られない孫悟空だ。サイヤ人じゃない方な。

 光の神の手のひらで踊っているだけの存在だ。

 だが手から飛び出てぶちのめす。

 それだけが人類皆殺しを止める方法なのだ。

 そうだ。神になっても俺は常に挑戦者側。

 余計なことは考えるな。

 ただこの拳を信じて戦うのだ。


「俺は人を守る。絶滅などさせない!」


 俺は呼吸を整え、構えた。

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