第15話 鬼畜かつ外道

 俺は蟲たちにカメラを切り替える。

 静かに、だが急いで歩く集団があちこちにいた。

 数百はいるだろう。

 その顔は厳しく、悲壮な覚悟を背負ったものが多かった。

 それと明らかにゲス顔してるクズども。

 あれが刺客だ。

 完全に自分たちこそ正義だと思っているのだろう。


「なるほどね。王様……中途半端に赦免しやがったな」


 俺を助けたのと同じだ。

 王様は殺生を望まない。

 だから俺以外にもたくさん赦免したはずだ。

 賢王として歴史に残る英断だ。

 だけど……人間の心は割り切れないのだ。

 子を殺された親、親を殺された子。

 さぞ憎いだろうな。


 熊に親を食われた俺だって、王様が原因だ。

 でも王には許すだけの力がなかった。

 それを知っているから恨む気にならない。

 ジェイソン所長の殺処分を却下したので貸し借りなしと言えるだろう。

(なおジェイソン所長は純粋に俺への恐怖から殺そうとしたに違いない)

 犯人たちだって理屈ではわかっているだろう。

 でももう残っていないのだ。

 彼らの人生には王への復讐しか……残ってないのだ。


【でも……そのままだったら不自由はないのに……】


 賢者ちゃん。これは理屈じゃない。

 王を殺さなければ奴らは先に進めないし、安眠できる日は来ない。

 自分しかいなくなった寝室で目を閉じれば家族が復讐しろと語りかける。

 出世なんてあるわけがないし、一生賊として指をさされ続ける。

 失うものはないし、何もかも犠牲にする覚悟が出来てしまっている。

 そういう人生の最後の花火なんだよ。


【不合理です……】


 俺もそう思うよ。

 熊よりよほど面倒だ。

 でも奴らは王とルカを殺すことを選択し、俺は守ることを選んだ。

 これは絶対に交わることのない選択だ。

 俺は殺し合わねばならない。

 亜神が罰を下すんじゃない。人間として殺し合うのだ。


【みんな……バカですね……】


 ああ、そうだよ。人間は愚かなんだよ。

 俺はしばらく様子を見る。

 外部ユニットの仕込みも終わった。

 そろそろ二人は逃げた頃だろう。

 俺はスピーカーをオンにした。

 俺の分離した外部ユニットから一斉に俺の声が響く。


「賊の諸君、諸君らの企みはすでに明らかになった。

恨みを捨て投降するなら王に助命を進言しよう。

それでも抗うというのなら……我は諸君らを殺さねばならない。

拾った命を粗末にするな。これは警告である」


 俺は蟲型の外部ユニットのカメラをオンにする。

 今の放送で女中や下働きが外に逃げる。

 俺は逃げる彼女たちにカメラを合わせる。

 赤毛の女中が彼らの一人に捕まる。

 お楽しみタイム……だろうな。


「お楽しみタイム?」


 賢者ちゃんは知らなくていいの!

 復讐だったらなにをしてもいいと思ってる。

 いや……人生最後だからモラルのタガが外れているのか。

 男たちは女中さんを連れ込んだ。

 そしてその手が振れた瞬間……。


 ドカーンッ!


 女中さんが爆発した。


 馬鹿めが。それは俺の外部ユニットだ。


 熊を殺した爆発は人を殺すには大きすぎた。

 鋼鉄の鎧など、この爆発の前に意味はない。

 それに俺は肉の中に余った歯やら骨の破片を仕掛けておいた。

 それらの破片が男たちをミンチに変える。

 男たちは親にもわからない姿になって即死。

 窓どころか壁を突き破り、余った肉が外に放り出される。


【あ、悪辣すぎる……】


 そうだよ賢者ちゃん。

 俺は手段は選ばない。

 大きな音がすると他の賊たちはパニックを起こした。


「先回りされている!」


「計画が漏れてたのか!」


「ぐ、神よ! 復讐を遂げさせてください!」


 ぶちり。

 また血圧が上がる。

 てめえらよ。

 なにも悪くないルカの人生めちゃくちゃにしておいて、その台詞はねえだろ。

 俺や父ちゃんとの一騎打ちを望んだのだったら、いくらでも名誉をくれてやった!

 お前らは、ただ、無様に死ね!

 今度は廊下に男たちが集まる。

 小さな子供……ルカを追いかけていた。


「すばしっこいぞ!」


「ええい、取り囲んでしまえ!」


「殿下、お覚悟!」


 死ね。

 その手が振れた瞬間、ルカが爆発した。

 男たちが吹っ飛んだ。

 それだけじゃない。

 他の廊下にいた男たちも爆風に飲みこまれる。

 片足が吹っ飛んだ男がぺたりと床に座ってブツブツとつぶやいていた。


「外道が……こんなのは騎士の戦いではない。

神よ……力の神よ! 戦いの神よ! 我らに力を!」


 るっせえ!

 その台詞はルカを呪った時点で寝言なんだよ!

 正々堂々戦ってほしけりゃ、てめえらも正攻法で来やがれ!


【ご主人様。ご主人様は外道で鬼で手段を選ばないけど……私は味方です】


 ありがとよ。


 ブツブツとつぶやく男はすぐに意識を失った。

 そしてそれに続くようにあちこちで爆発が起きた。

 炎が肉を焦がし、血が花を作る。

 燃えた油の匂い。

 悲鳴。

 それだけじゃない。

 俺は蟲の軍団をも使った。

 逃げる女官を捕まえた男がいた。

 今度こそ俺の外部ユニットではない。

 そういうのを見つけたら蟲の出番だ。


「へっへへへ。

復讐などやってられるか!

俺は好きなように生きてくれる」


 俺は男の背中に蟲をくっつける。


「うわっ! なんだこの気持ち悪いの!」


 男は暴れるが、俺の蟲は構わず顔までよじ登る。

 そのまま耳からちゅるんと男の中に侵入した。

 鼓膜を破り、頭蓋骨内に入り、神経を食いながら脳に到達。


「あひっ!」


 その声が男の末期の言葉だった。

 脳を食い尽くした外部ユニットが目から出てくる。

 女官さんはすでに逃げていた。


「聞いてない! 聞いてないぞ! こんな死に方をするなんて! ばぶらっ」


「ひ、ひいいいいいいいい! ぶちゅん」


「俺の足が! 俺の足があああああああああっ!」


 あちこちで爆発と悲鳴が響いた。

 すべて俺の仕業だ。

 俺は手加減などしない。

 ただ踏み潰すだけだ。

 しばらくすると場を支配するのが、狂気の声と爆音から静寂に変わる。

 俺はそれを待ってスピーカーで訴えかける。


「愚か者どもよ。中庭で待つ。決着をつけよう」


 クズどもの掃除は終わった。

 次は自殺志願者共に引導を渡す番だ。

 俺は外部ユニットを展開。

 これが数年にわたり開発した最強ユニットだ。

 それは日曜朝のヒーロー風。

 外骨格に身を包む、俺の鎧だ。


【とうとう出すことになりましたね。この悪役風スーツ】


 か、かっこいいいもん!

 世界の芸術を数百年先取りしただけだもん!


【この世界だとイナゴもバッタも飢えと疫病と破壊の象徴なんですよ!】


 破壊違うもん……かっこいいもん。

 うぐ、男の子の夢だもん!

 確かに耳から入って脳を食い荒らすのはヒーローとしてどうよって思う。

 でもヒーローなのだ!

 ヒーローだと思い込まねばやってられない!


【神なんだからヒーロー気取らなくてもいいのに】


 それがお約束というやつなのだよ!

 俺はスーツの胴体にコアユニットとして取り込まれていく。

 スーツの身長は180センチ。

 俺は鎧状の胴体に守られるという寸法だ。

 取り込まれた俺に神経ノードが接続される。

 正直痛い。歯を削られる感じ。



 名前:ラルフ・マーシュ(戦闘形態)

 種族:亜神

 LV:20

 HP:99999/99999 MP:47530/50000

 力:2936 体力:1520 知力:7800 魔力:9999 器用さ:106 素早さ:96 EXP 1/65535


 スキル


 魔法 LV:9999 苦痛耐性・極 LV:MAX 精神耐性・極 LV:MAX 低栄養耐性 LV:666 物理耐性 LV:666 寒耐性・極 LV:MAX

 賢者 LV:9999 毒・極 LV:MAX 毒無効 LV:MAX 光合成 LV:10 スキル割り振り LV:2


 スキルポイント:30000


 称号:地母神の寵愛、ダークメサイア、死を乗り越えしもの、賢者の主人



 これが俺の現在のステータスだ。

 一見すると強そうだけど、実は弱い。

 動物と比べると素早さが足りない。

 攻撃力偏重タイプだ。

 でも人間型のほうが室内では強い。

 動物型は室内では滑るしコケるのだ。

 やはり人間が作った人工物内では、人間が一番強い。

 

 プシューッと冷却用の炭酸ガスが排気された。

 異世界勇者の戦いっぷりを見せてくれるぜ。


【勇者……? え? 脳味噌食べる勇者……?】


 マジ疑問やめて! 心が折れるから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る