第4話 王女と少年の初体験

 フェリクス様の執務室に着くと、俺は何故転移魔法を使えるようになったか、何故姫様を残して城に転移したのかを、みんなに説明した。


***


 城を出て一ヶ月経った頃、俺は姫様に話があると呼び出された。


『なんすか? 俺はこれから芋の皮むきと、パン生地作りと、パンを発酵させている間に買い出しに行くつもりなんで、忙しいんですけど』


『わたくし、カインに打ち明けたいことがあるの』と、姫様はモジモジとし始めた。


『愛の告白ならお断りです!』

『そんなわけないでしょ! わたくしはアレ……っと、なんでもないわ! 実はわたくし、とっても魔力が強いの!』


 俺は当然の告白に目が点になった。そりゃそうだ。姫様は魔法師団で一番魔力が強い。だから王女なのに、魔王討伐隊にいるのである。


 姫様の戯れに付き合っている場合ではない、俺は早くパンをこねたいのだ。


『はいはい、姫様は魔力がとっても強い、お姫様ですからね。あーすごいすごい。じゃあ戻りますよ!』

 俺は回れ右をして、宿に戻ろうとした。


『違うわ! いつもは本気出してないだけだから! わたくしの魔力は、もっとすごいんだから!』

『そんな、自分やればできる子なんです、的な発言しちゃって。あのねぇ、姫様。やればできる子は、すでにできるんですよ?』


 姫様は『違う、違うの』繰り返しだ。

 早く戻らなければ、パンは二回発酵させなければならないのだ。


『もう宿に戻りましょうよ。こんな逢引みたいなとこアレク様に見つかったら、俺はひっそりと、人知れず暗殺されてしまいます。まじで。魔王討伐に駆り出されたせいで恋人もいないし、あんなことや、こんなこともしたことないのに、まだ死にたくありません!』


『なんでそこでアレクが出てくるのよ!』 

 姫様は真っ赤な顔で絶叫した。


『これ以上引き延ばすと、夕食はパン抜きですよ!』


 これがトドメだ。姫様は『パン抜き…』と青ざめている。

 俺はこれでようやく戻れると安心したが、姫様は引き下がらなかった。


『百聞は一見にしかず!』と、姫様は俺の手をガシッと掴んだ。

『うわぁ! 何するんすか⁈ パワハラ反対! アレク様ぁー!』

『うるさい! 黙ってて!』

 姫様は何やらブツブツと唱え始めた。


『ギャーーー! 体が青く光ってる幽体離脱⁈ 助けて神様ぁーー…………』


 おびただしいほどの光が放たれ、俺は体がこの世から消えて無くなるような感覚に陥った。

 俺、死んだ…あんなことやこんなこともしない内に……そう思って、目を開けたら、景色が一変していた。


『ふぅ、二人の転移って初めてだったけど、一人も二人も同じね。だったら三人も同じよね』姫様はニコニコ顔だ。


『えっ⁈ 今、初めて試したけど上手くいっちゃった♪ みたいなこと聞こえたんですけど、気のせいですよね?』


 俺はガクガクブルブルと、生まれたての子鹿のように震えた。


『そうよ。二人は初めてよ』

『いやぁ、やめて! 二人の初めてはアレク様にとっておいてあげて!』


『二人の初めってって、なあに?』と、姫様はきょとん顔だ。


 そうだった。姫様の性知識は七歳児レベルだと、侍女頭のヘザー様が言っていた。

 ちなみに俺は、世間ではまだ少年と言われる年齢だが、ディープすぎる五人の姉達のおかげで、同性愛、鞭とロウソク、女王様と下僕、等々およそ一般的ではないジャンルまで知っている。


『いいんす、忘れてください……』

『よし! では、これからわたくしの真の力を見せます!』


 もうこうなったら付き合うしかないので、パチパチパチっと手を叩いた。


『いよっ! 王女様!』

『えっへん! それではご覧あれ! あそこに小さな島があるの見える? あの島、今から消すわ』


『消すわって。さらりと言いますね。ちょっとした汚れじゃないんだから。消せる訳ないでしょ』


『それを今から証明するわ。危ないからちょっと結界を張るわね』と、姫様は俺に結界を張った。


 姫様が詠唱を始めると、大地が揺れた。


『地底に眠る マグマに宿りし炎の魔竜よ 我の力をもって 眠りから目覚めよ 汝の熱き咆哮で その力を我に宿せ バースト フレア!』


 周囲の空気がざわつき、姫様から衝撃波が放たれ、側にあった大木が根元から倒れた。

 結界を張っていなかったら、俺もその衝撃で吹き飛ばされていただろう。


 姫様の手から、真っ赤な竜の幻影が見えたかと思えば、竜はまっすぐに島に向かい、凄まじい爆音と共に島は消滅した。

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