好きな人には赤い口紅を

ばなな

第1話

小さい頃母に連れて行かれたデパートの1階の化粧品売り場。

1見るものも興味のあるものもなかった私は1人でブラブラと歩き回っていただけ。

ふと立ち止まって見えたのはずらりと並んだ沢山の口紅たち。パッと明るい赤からピンクに近い赤、深みのある赤、ただひたすら赤い口紅が並んでいた。

気がついたら長い間見つめていた。

「お嬢さんどうしたの?」

「え?」

「こことっても綺麗でしょ、この口紅の棚が私のお気に入りなの」

「これ全部口紅なの?」

「ええそうよ、あなた迷子ではないわよね」

「うん、お母さんあっちでなんか見てるの」

「じゃあ、ちょっとだけつけてみる?」

「え?」

美しい店員だった。綺麗な黒髪で唇に真っ赤な口紅がとても似合っていた。

流されるまま椅子に座り、目の前にある鏡に映る自分が少しずつ変わっていくのをただただ見ていた。

「はい完成、どう?」

「…」

口紅以外もメイクアップしてくれたのか顔がキラキラしている」

「気に入らなかった?」

「あ、違くて、なんかすごいなって」

本当は少しがっかりしたのだ。口紅をつければ店員さんの様に美しくなれると思ったのだ。でも鏡の私はそうでもなかった。

私を探しに来た母と店員が喋っているのを待ってる間も、ずらりと口紅が並んだ棚を見ては鏡の自分を思い出して絶望していた。

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