第肆章 7「絶望との戦い」

 7 失望との戦い



「では、行かせてもらいますっ!」

 ゴロの持つ刃長30cmの2018年製のバトルナイフが可部(ししょう)の頭上から振り下ろされる。


 同時、キイイイイン‼ と鋭い高音が大きなホール内で響いた。

「な、⁉」

 すると、その頭上にあったのは日本刀。

 煌く刀身に反射するゴロの顔。その表情はどこか辛そうで、余裕のないものだった。それは当たり前。彼は可部(ししょう)に勝ったことは一度もない。挑戦しても越えられなかった限界の壁を今、ぶち壊そうとしている瞬間である。

「これは、面白くなりそうだなァ‼‼」

「まじですか、これが、最後に、なりそうですねェ‼‼」

 二人の笑顔と同時に鉄片が火花となって散っていく。鉄と鋼の切り裂くような音が響いて散って、もしくは輝いて。

 繰り返し、

 繰り返し、

 繰り返す。

「おいゴロ、ちょっと強くなったか?」

「ああ、そういって、もらえると嬉しいですねぇ!」

 互角、のように見える戦いだが実はそうではない。圧倒的に不利なのはゴロであった。

 ついさっき、クハの目にナイフが突き刺さった瞬間。彼には見えていたのだ、そのナイフの刃先が分解して自分の方へ跳んできたことに。そのまま彼の右腕に突き刺ささり、まさかの毒刃だったことが今になって理解できる自分がそこにいた。

「っく……」

「お、そろそろかな」

「おい、ニヨン! クハは大丈夫かっ‼‼」

 意識が朦朧としていく。

 そして、鈍い音と同時に自分の左脚に激痛が走る。

「ええ、一応!」

「な、ら……」

 そのまま左向きに体が倒れて、可部の持つ日本刀がゴロの右肩に突き刺さる。

「あああ!」

 ただ、鈍い意識の中での激痛に救われ、何とかこぶしを握り締めて壁の懐へ一発。

「おっと」

「まったく……ひでぇ、な」

「毒はどうだい? まあ、実を言うとクハに突き刺さる予定であったんだけどね、あのコンタクトのせいで壊されちゃって……」

「ふざけんな!」

 もう一度、ナイフを握り締めて渾身の一撃。

「大丈夫かい? もう倒れそうじゃないか⁉」

「く、そだ」

 もはや立っていることが不思議なくらいにゴロはボロボロ。右肩からは血が噴き出て、左足には大きなあざが膨らんでいた。黒いコートの上からでも分かるような痛々しさに眺めるこちらの胸が痛くなるほどに、たったの10分で差が浮きだっていた。

「ゴロ! 私が‼‼」

 途端、ニヨンが跳び込んだ。

「お、君はよく知らいないねえ!」

 背中からP90を取り出して前方に10発。

「っ⁉」

 ただ、彼女がゴロの横まで達した時にはそこに可部の姿はなく。

「おい!」

 振り向くとクハの横に立っていた。その手に持つ日本刀を下ろし、クハの左目に向けて、ニコッと笑っていた。

「ニヨンッ‼‼」

 間髪は入れずにすぐにもう数発。

 瞬間、ニヨンが大勢を崩して後ろの壁まで吹っ飛んでいた。

「まったくなあ。まだ僕は本気を出してないんだが」

 そう、不利な原因はそこだった。

 ゴロとニヨンが二人かかってもついていけない、足の回転力や体の使い方がまず違っていた。アマチュアとプロの違いとでも言っていいくらいの違いがその間には映し出されている。

「ニヨン!」

「く、あっガハァ‼‼」

 ニヨンはもう動けないほどに体に瓦礫が突き刺さっていた。圧倒的絶望。戦えるのは

ゴロ一人。彼すらも負傷しながら、無傷の敵との戦いに身を投じていた。

 毒が回る、

 毒が回る。

 意識が遠のいていく中、右肩から感じられる激痛を感じ、彼は何とか立っていた。よれよれになる腕に内股気味の脚が弱弱しく彼という人物を形成して、その背中は小さくなっていた。

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