第壱章  7「武器庫」

 3【武器庫】


「あの、新しい武器って?」


「姉さん、いいの? マジいいの?」


「早く見せろ、所長」


 急に押していくナナに少し驚く所長、だが二人も負けていない。


「あの、姉様、新しい武器というものは何ですか! いいのでしょうか!」


「姉さん、いいのかよ! 本当か!! 俺な、あのナイフの新型欲しいんだよ!!」


「姉様、この男より先にあたしのスナイパーライフルを!!!!」


「いや、俺が先だ!! こんなバカ女よりも!!」


 またもや言い争いをする二人を見て、顔が真顔になっていく所長。それを感じもう一度スマホ開くナナ、この部隊は仲が悪い。


「……あのね、二人とも」


 声色の違いに少しだけ怯む二人。


「さっきの会議の反省、覚えているわよね?」


 さらに紫がかる顔にそっぽを向く目。


「ねえ、私の話、聞いているかしら?」


「「ごめんなさい」」


「今度は怒るからね?」


「……」


 数時間で同じ光景がまた見えてしまうこの組織。この二人の仲が悪いのか、それとも教育機関が悪いのか、正直言っても聞かない思春期の少年のようである。


「まあ、君たちの任務にはよく助けられている。組織としても増えていくはずの『KILL LIST』の標的も徐々に減りつつある。私は一応、君たちの活躍を評価しているのだよ」


「ありがとうございます、姉様」


「あざっす!」


 一度立ち止まる二人に比べ何も言わないナナ。


「そこのナナ君にも言っているのだけれどね」


 相変わらず変わることのないナナの表情に少し呆れ、歩みを再開する。


「今回の内容は武器のアップデート的なものだが、要望があれば、最新鋭の武器に取り換えてもいいぞ」


「ほんとっすか?」


「ああ、もちろんさ」


「いやぁ、嬉しいな! やっぱりあんな標的もいるのが分かればもっと強く凄い武

器も欲しいですよ!」


「私もやはり高性能なのが欲しい……」


 まるでお小遣いが貰えそうなこどものように目を輝かせる二人。


「クハ君に関してはもっと修行して機械に頼らないことだね。君の身体能力は決して高くない、だからもっと筋肉増やしてゴロ君みたいにならないと」


 すぐににやりと顔をゆがめさせるゴロ。


「やっぱり、音痴だもんなぁ、お、ま、え」


 そこで、額に血がのぼるクハ。


「な、ん、で、す、……まあ、事実ですし、いいですよ」


 先の言葉を思い出し、どうにか抑えるクハ、その判断は非常に良い。


「まあ、ゴロ君もナナ君には劣るからね。もっと鍛えも必要だな」


「ナナと比べないでくださいよ! ナナはなんて言っても一桁です、僕たち凡才とはレベルが違う……」


「まあ私もまだ大阪支部の時、びっくりしたことはあるけどね……」


「ええ⁉」


「姉様は大阪にいたのですか?」


「ああ、私もまだ18歳の頃ね。そこで経験を積んでやっとここで所長としてやっているんだよ」


 初めて聞く所長の話に少し目を疑わせて、ゴロはこう聞いた。


「じゃあ、姉さんは何歳なんですかァ⁇」


 刹那のストレートパンチ! ゴロに5000のダメージ‼


「あんた! 女性に、年齢は聞いたらダメでしょうがァァ‼‼」


 その場にうずくまるゴロを見た所長はすぐにクハを睨みつけ。


「クハ君……」


「あ、その、つい、ええと、もうしわk⁉」


「黙りなさい、さっき言ったわよね?」


「h、はい!」


 鬼よりも怖いその表情に腰が怯んでクハは声が裏返る。


「まあ、私をかばったので許しましょう」


「あ、ありがとうございます‼」


 冷や汗をぬぐったクハから目線をそらし、今度はゴロを睨みつける。


「ゴロ君も、クハ君の言うとおりだから、ね?」


「ぁぁ、は、はぁい‼‼」


 心臓がはち切れそうな二人と今にも怒り狂いそうな所長を見てナナが口を開いた。


「……あの、早くしてください」


(ばか! 殺されるぞ!)


(ナナ何やっているのよ!)


 そして当の本人は。


「そうね、行きましょうか」


「ああ、そうだ」


((ええ!!))


「ナナってやっぱすごいのね」


「ああ、一桁台の男は違うな」


 深夜テンションで行われていた話も落ち着きエレベーター室に着いた。


 周りには50機近いエレベーターが円形に配置され、番号とアルファベットが記されている。A01から始まりW15で終わる。あまりの数に普通の人は腰を抜かすほどだが、彼らは違う。


「ええと、武器庫と研究施設は……」


 さすがに迷う所長、この建物は迷路とでも思ってしまうかのように複雑さ。国の秘密機関はやはり侮れない。


「あ、これか」


 W03のエレベーターに乗り込み、B5のボタンを押す。


「ボタンの数すげえな、やっぱり」

「でもこれってダミーなんでしょ?」


 そのボタンの数、地下も合わせてなんと100!  だが、そのうち40個近くのボタンがダミーであり、このしつこさも念入りなセキュリティの一つである。


「そうよ、上の階なんかほとんどダミーね。このエレベーターは武器に関する階しか行けないものだからね。ちゃんと考えて作っているのよ」


 なかなかの警備体制を見せつけられた三人はどうしたら抜けられるのか思考し始める。これは暗殺者としての本能なのだろうか。


 エレベーターの慣性に少し三半規管をやられそうになるが、そんな時間もつかの間、エレベーターが開く。

 

 数秒の静寂に歓声が響き渡った。


「「おおおおお‼」」

「……」


 あまりの凄さに声を大きくする二人。


「——ようこそ! ここが、我らが用いる戦力の源、WA研究機関だ‼」

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