19.理解しがたい
『わたしの威光で、このように王家は新たな後ろ盾を得た。
アサートン侯爵家はエヴァンジェリスタ家のような不心得者と違って、喜んで娘からわたしに飛び込んでくるような非常にできた家だ。だからと言って王家を裏切った貴様たちの罪はなくならないがな。』
……あれだけプラカシュ家に貢献していた我が家を公に侮辱しておいて、なぜこんなことを書いてこれるのか、わけが分かりません。フェルナンド様、頭大丈夫ですか?
平気で後ろ盾の家を侮辱するような王太子がいる、いつ裏切られるかわからない王家を後見したい家があるわけもありません。
第一、泥舟に乗っている今の王家を、ましてや娘をわざわざ愛人という日陰者にして、さらに金を出してやるなんてまったくメリットがないではありませんか。
……いえ、むしろ高位貴族の令嬢を愛人にしようとするならば、それなりの補償金なりを王家が払わないといけないと思いますよ。
『しかし、これからデシリーを説得しなければならないかと思うと心が重い。もてる男はつらいな。
こんなことになったのも、いつまでたっても金と使用人を送ってこない貴様のせいだ。
少しでも悪いと思っているのなら、とっとと慰謝料と使用人をよこせ。貴様が渋ったせいでふくらんだ利子もたっぷりつけてな。
ギルモア王国王太子 フェルナンド・プラカシュ』
……本当になるかどうかはさておいて、あなたがマデリーン様に愛人になるようにせまったのは、わたしは関係ないですよね? どこまで浅ましい方なのでしょう。
それに、アサートン家が反エヴァンジェリスタと称することとなったいきさつも知らず、なんともおめでたい方だと言わざるをえません。
そして、わたしが読むのを待っていたレンブラント様にフェルナンド様の書状をお渡ししますと、彼はそれにさっと目を通したあとにあきれたように肩をすくめました。
「……なにが、もてる男はつらいなだ。あれだけ周囲に嫌われておきながら気づかないとは幸せな男だな」
はい、その評価はまったく正しいと思います。
フェルナンド様に対する貴族たちの抗議文は、かなりの数が王宮に送られたと聞きますからね。
臣下との信頼関係を築くのをおろそかにするどころか、破壊しまくったフェルナンド様に、義務以外でついてくる者などいないでしょう。
「よりにもよって反王家派の令嬢に愛人になれとは愚かすぎですね。さらに自分の命を縮めるまねをするなんて、はたから見たら滑稽でしかないですが」
次に書状を読んだエリック様が、おかしそうにそう言いました。
ギルモア王国の現状にも詳しいエリック様のこの言葉で、マデリーン様がフェルナンド様に焦がれたうんぬんは大嘘と明らかになったわけですが……。よくもまあ、恥ずかしげもなくこんなことが書けるものです。
「すごい勘違い男みたいですから、自分に惚れない女性はいないと思ってるんじゃないでしょうか。実際には寛容なロクサーナ様ですら、初対面から嫌われるような王子ですのに」
マリアム、わたしは別に寛容ではないですよ。フェルナンド様にされた悪行をつぶさに記録して、証人付きで陛下に送りつけるような人間ですからね。
本当に寛容なのは、プラカシュ王家にかかった時間と費用を領地一つで手を打ったお父様だと思います。
「しかし、アサートン侯爵家の行動は速かったな。王太子の馬鹿な要請というか命令に対して、その日のうちに王都の屋敷を引き払うとは、さすがに誇り高い筆頭侯爵家というところか」
「まあ! そうだったのですか。それを聞いて安心しました。あのフェルナンド様のことですから、なにをしだすかわかりませんし」
レンブラント様の言葉を聞いて、わたしは心から
「……確かにななめ上の行動すぎますね。愛人になれとせまった令嬢の婚約者が、三将軍の一人だと知らなかったんでしょうが、それを除いたとしても自殺行為としか思えません」
「甘いわ、エリック。馬鹿の行動力をなめちゃだめよ。ああいうのは、実際に他の三将軍が出てくる事態になるまで状況を把握できないんだから」
「……そういうものですか? それはさすがに……いや、もしかすると……」
マリアムの言葉に、エリック様が理解できないというような顔をします。
あの婚約破棄の騒動ののち、伝え聞いたデシリー様のひどい言動を思い返しつつ、なんとも言えない思いで、わたしは自作のいちご大福を口にしました。ですが、一つだけ今のわたしが言えるとするならば。
──本当に二人とも似た者同士で、とてもお似合いです。
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