24「献杯」
親家の
その
報せを受けた
親延、由布、十時(とその子)たちは、井手や松岡兄弟たちが敵方の大将を討った死闘の地である馬ケ嶽の中腹の開けた場所に
日は完全に沈み、酒が注がれた
由布家続、十時惟忠・惟次は父たちの後ろに座し、背中を見つめるだけしか出来なかった。
「覚悟はしていたが、こうも気持ちが沈むとは思わんもんだ‥‥」
「だが、この戦の勝報が間に合ったのは良い
「もし
十時惟安は
「惟克よ。今だから訊くが、
「‥‥理由は様々あるが、
この時代、男尊女卑であり、ましてや武家の当主が家格の下の家(この場合、豊後守護の大友一族が大神一族)に頭を下げるなど、腰の低い態度を見せるのは
「由布と戸次に上も下もなく、由布と戸次、両家の為の婚姻。それが
十時
「ああ、若‥‥孫次郎が生まれる前に親家殿とお光殿の
これまで親や孫次郎から亡くなった長男の話しなど聞き及んでいなかったので、そうだったのかと納得する惟次たちだった。
「そういう、おまえたち十時も何故、親家に
「そうだな‥‥」
由布惟克の質問に惟安は答えずに後ろを振り返り、子の惟忠・惟次に話しかけた。
「惟忠よ。お主たちから見て、孫次郎のことをどう思っている。腹を割って
惟忠は少し考え込んだが、すぐに思いついたことを率直に答える。
「少々
惟忠と惟次は双子や兄弟でもないのに顔がよく似ており、瓜二つだった。
それは父親の惟安、惟通も同様に似ており、顔に付いた傷でしか判別できないほど。
その発言に惟安と惟通は思わず吹き出してしまう。
一笑した後、「やはり親子だな」と惟安が感想を漏らすと、惟通も
「ああ、こういう所で血の
そう言いつつ惟通は懐かしそうに語り始めたのだった。
■□■
十時家の本貫地(十時村)は藤北村の隣に在るがゆえ、藤北の地頭が大神一族にとって因縁の大友一族の戸次あれど、
そして、親家とお光が祝言を挙げたという報せは十時村にも届き、戸次よりも由布と関わりがあった十時としては祝いの挨拶をしに藤北へ
若かりし頃の
「行かん」
と拒否したのであった。
惟通は呆れつつ、
「行かんって‥‥いやいや、
「‥‥」
「ああ、
「なっ!? そ、そんなこと言ったら、惟通だってお光ちゃんのことを気にしていただろう!」
「十時本家の
「‥‥その高嶺の花を、なんで由布はお光ちゃんを戸次なんかに。惟克はお光ちゃんを
「戸次の親家は大友の
「‥‥だったら、惟通。お主が行ってくれ」
「替え玉か?」
二人は顔が似ているのを活かして、幼い頃より替え玉などの
「良くも悪くも俺たちの顔はよく似ている。しゃっち、入れ替わっても分からんだろう。あの大友の
「そうか。まあ、二度ほどしか会ったことがないから大丈夫だろう。
そうして十時惟通は惟安の替え玉として藤北に
「十時惟安‥‥? いや、惟通殿ではないか。どうして、惟安殿と
親家はすぐに惟通だと気づいたのであった。
「二度ほどしかお会いしていないのに、
惟通は
「そうでしたか。十時惟安殿はお風邪を。体調が思わしくないのであれば、その旨をお伝えいただければ良かったのに」
「いえ、この
「そうですか‥‥ならば。おい」
親家は側にいた
「これは?」
「
「こんな
「はは、ご
多量にあるからといって
(高価な品を分家が受け取るということは、十時本家を
だが、惟通と惟安を見分けた親家に引かれるものがあった。
また相手の厚意を何度も断るというのも失礼にあたる。惟通は止むを得ずと
「‥‥親家殿がそこまで
「ええ、是非ともお越しくだされ。お光共々楽しみにお待ちしております」
親家は優しい眼差しを惟通に向ける。
その温かい眼差しが強く惟通の心に残った。
■□■
「とまあ、惟安とわしを一目で見抜き、替え玉を
惟通が
『親家殿。よく、わしと惟安を見分けられるとは。昔なじみのお光殿すら気づかれなかったのに‥‥。あれはあれで少し
『そなたの親が惟通殿たちを見間違えないように、よく見ていれば分かりますよ。それに、人それぞれに、その人だけの性格というものがありますからな』
惟安もまた同じことを思い出していただろう。顔を
「親家は、わしらをよく見てくれて、
「ああ、だからこそ親家殿は
惟通の言葉に由布惟克は静かに
「さて戸次孫次郎は、どうなるか‥‥」
親家亡き後、余程のことがなければ戸次の家督は
「初陣で
「
「だが、
「親家の息子だ。その見込みはある」
各々が感想を述べ合うのを黙って聞いていた親延は胸を
此度の戦でも両家の活躍がなければ勝てたかどうか分からない。
由布と十時は今後の戸次にとって欠かせない一族だと実感していた。
「よし、決めたぞ!」
「惟忠、今を
「「えっ!?」」
名指しされた惟忠と共に
「案じるな。
惟忠は真剣な眼差しを惟安に向けて「畏まりました!」と力強く返事をしたのであった。
由布惟克も息子の家続に話しかける。
「家続、俺の一存でまだ家督は譲れんが、由布に戻り次第、親族一門に
宣告された家続もまた惟忠にも負けない声で返事をした。
話し合いは
親家や討ち死にした十時惟種、井手度壽、松岡親之、松岡親利、沓掛尚之たちに届くように、
「「「献杯!!!」」」
哀悼の意を込めて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます