四日目、五日目

四日目。


「今日はー、『龍式武術ドラゴマーシャル』を教えてしんぜよーう」


「ははっー」


なんからかっこいい名前が出てきたぞ。俺のやる気モチベーション爆上がりだ。


「まずね、この龍式武術はね、龍族にしか伝えられていないんだ」


「人間は知らないってことか?」


「正確には、存在は知ってるけど、誰一人として使える者がいないってことかな」


「す、すげーじゃんそれ!」


語彙力の無さが恥ずかしいが、秘術であることに違いはないらしい。


「でも、龍式武術を教える前に知っておくべきことがあるのだよ、ライト君」


「ほうほう」


「それは、『気』の存在だ」


「『気』ってあの?」


「そうそう、あのよくアニメに出てくる『気』だよ」


ということは、修業していくうちに空を飛んだり、図太いビームでも撃てるようになるのだろうか。


「ビームってこんな感じかなぁ?」


そう言って、近くの手頃な大きさに掌を向ける。


「ほい」


ベルセルクが気の抜けた声を出すと、、、


ズドォォォーーン


「ええ……」


岩を容易く貫通した白光は、後ろの木々も薙ぎ倒してしまった。


「あっ、やりすぎちったぜーあははー」


「おいおい、虫踏んじゃった的な感じで環境破壊してんじゃねぇよ!」


こういうがいるせいで、きっとこの自然は壊されていくのだろう。きっと、人族だけのせいではないだろう。




「まずねー、お腹にこう、力をね、溜める感じでね……」


「いや、分かんねーよ!お前は、自分自身の才能が凄すぎちゃって指導が上手くできないタイプの人かよっ!」


「そう言われてもねー、出来ちゃうものは出来ちゃうんだよ」


まず、彼女の言うことには大気の中に溢れている『気』を感じ、それを集めることから始めるらしいが……


「う、ううーん、ぐぐぐ…」


「力みすぎ~」


難しい。やはり秘術であるだけあって、直ぐには出来ないのだろう。


「うーん、じゃあ一回腹式呼吸をしてみてよ」


「すうぅーーーはあぁーーー」


「そうそう、そして目を閉じる」


ギュッ、と目を瞑ると暗闇であるはずの景色に、淡い光がポツポツと浮かんできた。


「これは……」


「それが『気』だよ。こんなにも早く見える人は、初めて見たなー才能あるかもね、魔法と違って」


「一言余計だっつーの」


そう言いながらも、俺は目を閉じたまま、意識を集中させていく。淡くて弱々しかった光が、だんだん一つの塊を作り、光り輝いていく。


「すごいね…これほどの気を集められるとなると相当の才能があるんじゃないかな?」


なるべく、意識を乱さない。本能的にそうしてはいけない気がしたのだ。体の力を抜き、自然に身を委ねる。


ちょっと何言ってるか分からないけど、それっぽいことをし続ける。


「よし、これくらい気を集められれば合格だね」


「ふぅぅー」


息を吐くとともに、集中が途切れ気が霧散する。やはり、集中は切らすべきでなかったようだ。


「今度は、この気を体に纏わせて……」


彼女の講義は、夜が耽けるまで続いた。



_______________________




五日目。


「ね、眠い!俺は眠いぞ!」


「うーん、ちょっと昨日張り切り過ぎたかな?」


「張り切るってレベルじゃねえぞ、オィ!」


「どっかで聞いたような…」


昨日は深夜まで、龍式武術の鍛錬をしていた。応用技まで含めると、かなりの数を習得したが、彼女曰く全体の数パーセント程だという。


「き、今日は休みっすよね、流石にね…」


「え?勿論、やるよ今日も」


俺は、必死の形相で頼み込む。まるで、ブラック企業の社員が有給を頼むかの如く。だが、ブラック上司ならぬブラック龍のベルセルクさんは、一切の躊躇も無く、返答しやがった。


「最近は、よく修業中に走馬灯が走るのですが?」


「知らんな」





ええと、 俺、今生贄になるより辛い立場じゃない?

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