第四話「変貌と漫才?~男は何故狙われたのか~」

「遅えだろ、気付くのがよ」


 突如雪原に放り出された三治の前に、あの着ぐるみ男が姿を現した。


「てっ、てて、てめぇ! な、何でここにっ!?

 あの兄ちゃんはどうした!?」

「お前が知る必要なんてねぇだろ。

 それより……超能力が手に入る黄色い石ころとやらについて詳しく聞かせて貰おうか」

「そ、そんなのお前が知る必要なんて――

「あるんだよなぁ!」

「ひいっ!」

「あるんだよ。知らなきゃなんねぇんだよ。

 なんせこちとら"それ"目当て、お前がそれ持ってるって聞いたからこうしてお前に優しく語りかけてるわけでよ」

「や、優しく語りかける相手に拳銃(ハジキ)向ける奴があひいっ!?」

 言葉を遮る発砲。

 飛び退いた三治は偶然にも弾丸を回避し、そこでふと思う。

(そうだ、俺ぁ今まで何をビビってたんだ……。

 拳銃(ハジキ)が怖くたって超能力(これ)があるじゃねぇか!

 こいつの強さは俺自身が理解してる!

 この力があればあのウサギ野郎なんざ目じゃねーぜ!)


 三治はポケットの黄色い石を握りしめる。

 身体の奥底から沸き上がる力に気分は高揚し、銃への恐怖心をも打ち消した。


「やい、糞ウサギ! てめー俺の黄色い石ころが気になるそうだな!

 だったら見せてやるぜ、この石ころを得た俺の本気って奴をなああっ!


 ぬうおりゃあああああああっ!」


 三治は握り拳を掲げたまま黄金色の光に包まれる。

 雪を蒸発させるほどの熱を帯びた光は爆ぜるように如く輝き、石を持つ男に驚くべき力をもたらす。


「おおっ、こいつぁすげえ!」

(なるほど、そうなるか……)


 光に包まれた三治は、縦横2メートルほどの二足歩行する巨大なブルドッグに姿を変えていた。

 針のような剛毛、杭のような牙、ぎらつく目玉、黒煙の吹き出す鼻孔、大きく裂けた口からはアーク放電のような光が漏れ出ている。

「づわはははは! 何だかよくわかんねーが、これでやりたい放題だぜぇ!」

「よくわからねぇ力でそんなに大喜びできるのか。

 音楽活動もしてねえ癖にお目出度い頭してんなぁ」

「んだとてめぇ!?」

「だってそうだろ。自分の車を何も知らず乗り回すようなもんだぜ。

 まあ車種だとかは知らねえにしても、燃料が何かくらい知らねーとだろ」

「糞ウサギ、てめぇ! 何もっ……言い返せねぇなぁっ!」

「言い返せねぇなら何も言うなよ」

「あと俺は運転免許取消のままだぜ!」

「堂々と言う事じゃねぇし至極どうでもいいわ」

「お前ってモコモコした見た目の割に冷たいよな。

 まあいい! ともかく教えてくれ! 俺の手に入れたこの力は、あの石ころはなんなんだ!?

 車の喩えを聞いた途端不安になってきちまった!

 こんなんじゃお前をぶっ殺して銀河性豪にもなれやしねぇ!」

「なんで俺に勝つこと前提なんだ。つーか何だよ銀河性豪って」

「銀河系全てのいい女を抱いて孕ますハーレムの王だよ! 五歳の頃からの夢なんだ!」

「……このホーデン・ゲヒルンが」

「ホーデン・ゲヒルンってなんだぁ!?」

「ドイツ語だよ。日本語にすっと白子脳味噌だ」

「白子ってのがよくわかんねーけどバカにされてんのはわかるぞ!」

「バカなのか頭いいのかどっちだそれ。

 白子つったら魚の精巣、要するに金玉のことだよ」

「なるほどつまり金玉脳味噌か! ……どういう意味だぁ!?」

「一々言わなきゃわかんねぇかな。脳味噌筋肉の金玉版なんだが……」

「バカにされてるらしいってことしかわかんねーわ!」

「……金玉て精子作る所(トコ)だろ?」

「おう!」

「精子って何かしらエロいことすっと出るよな?」

「だな!」

「つまり男のエロは精子で、金玉ってことでもあるよな?」

「まあそうなりもするな!」

「要するに、脳味噌が金玉……

 常にエロ優先、それ以外はガン無視のクソみてえなアホってことだ。

 OK?」

「ほうほうなるほど、常にエロ優先でそれ以外はガン無視のクソみてえなアホか!

 確かに今の俺にぴったりの言葉だな!

 いやー、俺小3からロクに学校行ってねーからそういうのわかんねーんだよ!

 こんなことなら中学くらいまでは行っとくんだったぜ、って


 ンだとゴラァァァ!?」

「キレんのおせーよ。何字喋ってんだよ。テンポ悪くなるわ。落ち着け。

 まあいいや。で、何だっけ? ああ、お前のその力の源、石ころの正体だったか」

「お、おう……」

「そいつは『迅雷晶玉(じんらいしょうぎょく)アガツマ』……英雄の魂が宿ると謂われる秘宝『討魔玉(とうまぎょく)』の一つだ」

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