三人目の依頼者 22y5m
「すみません、お忙しいところ相談に乗っていただいて。これボランティアなんですよね?」
相手は大学4年生、就職活動中とのこと。
内容はなかなか内定がもらえず不安であることと、その原因が自分の性格ではないかと悩んでいることらしい。その話を私は一通り、ただうなずきながら聞いていた。
「そうなんですね、内定がもらえないと不安ですよね。何かもらえないといけない特別な理由がおありですか?」
「はい、自分母子家庭なんで、早く母さんに楽をさせてあげたいんです。でも昔から人が良すぎて、遠慮ばかりしてしまうんです。もっと自分の思いを強く出した方がいいって先生からは指導されるんですけど……」
「そうなんですね、私も同じです。いい人って最初は響きもいいんですが、やがて『どうでもいい人』になるんですよね」
「そうなんです! なんかこのままいい人続けてても良いことないんじゃないかと思って……」
私は依頼者の話をうんうんと聞いていた。
これから社会人になる、まさに船出の瞬間。人生という航海が始まる大事な場面だ、どう声をかけてあげたらよいのだろう。
「お母さんを思う気持ちはわかります。でもあなたが自分を追い込んだり、辛い思いをすることをお母さんは喜ばないと思います。世の中なるようにしかなりません、やることはいつでも一つ。自分が一番良いと思うことを一生懸命やることです。結果は後からついてきますから」
これは私が就職活動中にとある先輩からかけてもらった言葉だ。この言葉に今までどれだけ救われたことか。その後も私達は色々話をした。面接では媚を売らないほうが良いということ、入りたい会社より自分を取ってくれた会社で働く方が絶対に幸せだということ、むしろ自分を落とした会社に後悔させてやるんだくらいがいいんだということなどなど。気づけば終わりの時間が来ていた。
「ありがとうございます。あなたとお話が出来て、本当に良かったです。あなたはとても優しい人ですね、自分もあなたみたいな人になりたいです」
そんなやりとりで三人目の依頼者との会話は終わった。
こんな言葉で良かったんだろうか、自分でも分からない。でも彼は最後、明るい声をしていた、きっと満足してくれただろう。
ぞわぞわぞわ、と胸の奥が鳴っていた。
ここまでの三人の依頼者、確かに私と境遇は似ていた。だから私が選ばれた、そう思っていた。
しかし実際にはそうではない。
似ていたのではなく「同じ」だった。いじめに遭ったタイミング、状況、父親の亡くなった年、死亡理由。そして就職活動。これら全てが私の境遇と全く「同じ」だった。
さすがにここまで詳しくは登録フォームには書いていないし、知っている人だっていない。まさかとは思うが……。
——今まで話していたのは、過去の自分? ひょっとすると、この通話は時空を超えて自分と話している?
どこか騙されているような気がして、辺りを見回した。もちろん隠しカメラは無い、ドッキリではなさそうだ、そもそも私は芸能人ではない。
それなら、何なんだこの不思議な現象は。
その時だった。
ピリリリリ、通信のコールと共に、依頼者情報のメールが届く。
次の相談相手の年齢を私は確認した。年齢は私と同じ三十歳男性。相談内容は——。
年齢が同じ。ということは、今までの流れからすると相談相手は「私自身」ということになる。
そうか、そういうことか。
分かったよ、いつまでも逃げてばかりではいられない。ついに私自身と向き合わなければならない時が来たのだ。私は一つ、覚悟を決めてコールに出た。
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