第28話 〜追いかけっこ〜

「あっ!、ここは!」


 私はようやく見覚えのある場所にたどり着きました。

 そこは例の湖で、最近お兄ちゃんと遊んだのを覚えています。


「やった!、ここまできたら私でも帰れる!」


 ようやく見覚えのある場所に出て来れた私は、力が抜ける感覚を覚えました。

 ここまでくれば後は家に帰るだけです、足を少しずつ進めていると、草むらが揺れ動きました。

 嫌な予感が的中し、さっきのオオカミが全速力で走ってきていたのです。


「また...、木がある所までは遠いし、ここは...」


 私が取った行動は、湖に飛び込みました。

 思った通り、あのオオカミは泳いだ経験が無いようで、湖に飛び込んできません。

 私が勝ち誇った表情で奴を見ていると、ある事に気がつきました。


(夜の湖ってこんなに冷たいんだ...)


 夜の湖は昼の気もち良さとは全く違う物だった事に気がつき、この作戦が失敗だったと思いました。


(これ...ダメだ...、もう泳げない...)


 手足の感覚がだんだんとなくなり、感覚が麻痺したように動かなくなっていくのを感じることしかできません。

 最終的に手も足も動かなくなって、だんだんと体が沈み始めました。


(息ができない...、浮き上がらないと...)


 そう思って体を動かそうとするのですが、動く気配がありません。

 どんどん息が苦しくなり、本当に力尽きそうになった時、お兄ちゃんの言葉を思い出しました。


(ノーレ、お兄ちゃんと離れ離れになった時は、お兄ちゃんの教えた方法をやって、そうしてくれたら絶対にお兄ちゃんが飛んでいくから)


 私はお兄ちゃんに言われた事を実行しました。

 風の魔法を上空に向かって放ちます。

 水の中だったので多少の水が上空に飛び跳ねただけで終わりました。


(お兄ちゃん...)


 これでは効果を期待できそうにありません。

 私が死を覚悟した時、水が揺れ動いた気がしました。

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