友達から送られてたソシャゲをスマホに入れたらガチャで当てたモンスターで殺し合うデスゲームに強制参加させられた件について。

アラサム

一章 ゲームの始まり

プロローグ 

「ねぇねぇ、見てほら!やっぱり池袋の上空でドラゴンがいたって呟やかれてる!」


「いや、どうせ見間違いだって。なんか飛んでるゴミ袋とか風船が偶々そう見えただけでしょ?」


「まぁ、ドラゴンなんて普通いる訳無いよね」


「えぇッ!?でも私は見たんだよ!ほら、見て意外と目撃したってツイートも多いし!!」


 騒がしい朝の教室。担任の教師が来るまでの間にクラスメイト達が様々な話題について談笑をしている中で、そんな会話が耳に入ってきた。


「……………」 


 ここ最近、俄に噂になっている都市伝説。東京の上空を飛ぶ竜を目撃した、やたらと大きな蟷螂を見た、ツチノコがいた、夜に街中で獣の遠吠えが聞こえたと思って向かってみるとビックフットらしき姿を見ただの様々なUMAの目撃情報がネット上に上がっていた。


 お陰で掲示板などでは今の東京はUMAの巣窟やら怪物が蔓延る魔都と呼ばれてオカルト好きの間で話題になっているらしいが……。


「馬鹿馬鹿しい…」


 そんなゲームや漫画じゃあるまいし、こんな都会に怪物なんかいる訳が無い。興味を失った少年は視線をクラスメイトから教室の時計へと移して現時刻を確認する。


 すると担任が教室に来るまでまだ10分程はあったので、このまま仮眠を取ろうと少年は机に突っ伏して目を瞑った。


*****



「クソッ!クソッ!」


 深夜、人々が眠りにつき静寂に包まれた夜の街を一人の少年が周辺の住民への迷惑を考慮することなく声を荒げ、必死の形相で駆けていた。何なら少年は敢えて大声を出すことで誰かが様子を見に来てくれることを願っていた。


 けれども誰かが様子を見にくることもなければコンビニに逃げ込んでも客どころか店員すらいないという有様で少年の恐怖はピークに達していた。

   

「マジで何なんだよッ!?」


 恐怖心を紛らわせる為に叫びながら少年、藤山翔太ふじやましょうたが背後を振り返ると視界に不気味なほどに静かな闇のみが映し出される。けれど少年には分かっていた。少しずつ、けれども確実に暗闇の奥から此方に近づいてくるの存在に。


「畜生ッ!?こんな壁にもならなねぇクソモンスターじゃ、あんなバケモンどうにも出来ねぇだろ!!」


 ずっと手に持っていたスマホの画面へと視界に向ける。そこには『パーティ』と表示された画面には鳥のような姿をしたキャラクターにバツ印の表示が付けられていた。


「こうなったら新しくガチャを引くしか……」


 指で画面上のガチャの表示をタップしてガチャ画面へと移行した翔太は迷わず10連ガチャのボタンを押す。単発一回如きじゃまともなモンスターは期待できないし、現状を打開するモンスターを召喚する確率を少しでも上げるには母数を増やす以外に手は無い。


「あぁッ!ptが5pt足りませんだッ!?50ptってお前、ふざけんなよッ!?」


 初回無料ガチャ以外ではガチャを引かずにポイントは全て換金していた。故に10連ガチャに必要なptを今まで知らなかった翔太はガチャの値段を確認して思わず怒りの声を漏らした。


「クソッ!あと5pt…そうだ、確か誰かを招待すれば報酬として5pt貰えた筈だ!!」


 すぐに画面を操作して誰かを招待しようと考えた翔太は画面を操作して招待コードを送る相手を選ぼうとして一番上に表示された名前に視線を向ける。


「あ、赤城…」


 五十音順で真っ先に画面に表示された仲の良い同級生の名前を見て思わず指が止まる。幾ら命の危機に瀕しているとはいえ、こんなことに友達を巻き込んで本当にいいのかと。


「クソッ!すまん、赤城ッ!」


 このゲームに巻き込んでしまうことに僅かな葛藤はあったが、自分の命には代えられない。躊躇いながらも招待コードを友人、赤城陽路あかぎひろのLINEへと送信する。


「こ、これで5ptが————ガッ!?」


 コードを送ったことで油断した次の瞬間、身体にドスッと鈍い衝撃が走る。胸元から感じる嫌な感触に恐怖を覚えながら翔太がゆっくりと視線を下ろすとそこには胸元からどこか鎌を彷彿とさせる鋭い刃が突き出ていた。


「あッ……ぐァァァアアアッ!?」


 翔太の血によって貫かれたシャツの胸元が血でじんわりと赤く染まっていく。肉体を貫通している刃を確認したことで遅れながら胸元から走る激痛に少年は思わず苦しみの絶叫を上げた。


「スマホ見たままボーッと立ち止まって、もう諦めちゃったのかな?」


「あぁ……ぐッ!」


 背後から聞こえてくる男性の声、けれども翔太は相手を確認することなく力を振り絞って背後から自身を刺した相手を蹴り飛ばして地面に転がり込む。


「ゴホッゴホッ!ぐッ…」


「お、いいねぇ!今時の若者は何事もすぐに諦めちゃうから嫌いなんだけど、その点で君は高評価だよ!」


 言葉の内容とは裏腹に背後からどこか嘲笑するような声音で男が呟いてくるが、翔太は無視して生き残るべく、地面に倒れた瞬間に手放してしまったスマホを目指して必死に地面を這う。けれども翔太の努力を嘲笑うかのように胸元から流れ出る血はみるみる増えていき、地面に赤い水溜まりを作り出す。


「く…そ、ざけんなよ…。まだやりたい…ことが、やんなきゃいけないことが沢山……ッ!」



 身体から力が抜けていき、視界がぼやけ始める。

 出血量から見ても翔太がもう助からないのは明らかだが、それでも翔太は血に塗れた身体を必死に引き摺って生きようと足掻き続ける。


「……うん、もういいや。やっていいよ、マンティアス」


『ギギッ!』

    

 そんな翔太を楽しそうに眺めていた男は数秒も経つと飽きた様子で自身の背後に控える蟷螂のような姿をした化物に止めを刺すように命じる。指示を受けた蟷螂は唸り声を上げると命令に従って翔太にトドメを刺すべく、頭部に狙いを定めると無慈悲に刃が振り下ろした。


「嫌だ……死にたく…ガッ————」


 碌な抵抗ができない翔太はザクッという肉を裂く音と共に怪物の鎌によって呆気なく頭部を貫かれ、その16年間というあまりにも短い人生を終えることになった。 


「…………」


 恐怖によって醜く歪んだ少年の顔を興味なさげに少しだけ眺めていた男は視線を少年から手にしているスマホへと向ける。スマホの画面には『You Win!』という文字が表記され、スマホから流れるファンファーレが夜の街に響き渡った。


「おっ、ボーナス45pt。素人の割に結構pt持ってんじゃん」


 勝利報酬を確認した男は予想以上の戦果に思わず喜びの声を漏らした。見るからに相手は初心者だったし、どうせ大した足しにはならないだろうと思い込んでいたが、どうやら予想に反してポイントを溜め込んでいたようだ。


「今日は鰻だな。なぁ、マンティアス」


『ギギ…』


 満足げな主人の言葉に控える化物はどこか肯定するように鳴くのだった。

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