第11話
「ところで、私にかんすることのたんとうがおまえになっているというのはどういうことだ」
問うと、ルカは一瞬「何のことだろう?」というような顔をした。けれどすぐに、「ああ、昨日の」と思い当たったようだった。
「言葉のままの意味だけど。フィーに関することは俺の担当なんだ」
「きしだんにそんなせいどはなかったはずだが」
「制度はないけど、そういうことになってるんだ」
にこにこにこ。ルカは輝かんばかりの笑顔だ。ゴリ押されている感がすごくする。
フィオラは少し考えた後、「……きしだんにめいわくはかけるなよ」とだけ言った。いろいろ諦めたともいう。
「すこしはやいが、しょくじにするか。行きたいところがあるのなら、まかせる」
「任せて。フィーと行きたい店はまだまだあるからね」
「それもどうかと思うが」
(連れが欲しいなら誰か別の者と行けばいいだろうに)
そう考えるフィオラの頭の中には、『誰と食事を共にするか』を重要視する観点が抜けているのだが、それを指摘してくれる人はいなかった。
ルカが案内してくれたのは、昔からやっているらしい大衆食堂の店だった。
素朴な感じだが賑わっている。常連が多いのだろうな、という雰囲気だ。
子ども連れもよく来るのか、子ども用の椅子と食器も出てきたので、フィオラは安心した。
(これならルカもおかしなことを言いださないだろう)
予想どおり、ルカが何やら変な理屈をこねることもなく、元の姿の時のような、ただ対面で食事するだけで終わったのだが。
「本当にデザートはよかったのか?」
「しつこい。この体ではひとりでたべきれないんだ」
「だから俺が残りは食べるよって言ってるのに……」
フィオラの甘味好きを知っているルカが、しきりにデザートはいいのかと訊いてくるので、フィオラはちょっと不思議に思った。
何も毎食後デザートがないと物足りないというほどの甘味好きではないので――確かにルカと食事に出るときは、自分では入らない店のデザートが気になって頼んではいたし、今も気になってはいるが――食べきれないから頼まないというのは普通の選択肢だと思うのだが。
(逆に、ルカが食べたいだけという可能性もあるか?)
フィオラほどではないが、ルカもわりと甘味を好むようだった。フィオラがデザートを頼むときはいつも一緒に頼んでいたし、男性にしてはかなり好きな方ではないだろうか。……ちなみにフィオラが自分を気にせず食べられるように、といった理由もあって頼んでいたのを、フィオラは知らない。
(男性の側だけがデザートを頼むのに抵抗がある者もいると聞く。……が、ルカはそういう手合いには見えないな)
やはり単純にフィオラを気遣っているのだろうか。だからといって食べかけを食べさせるのに抵抗がないわけではないので、昨日のような不測の事態以外では回避を選択するのは妥当だろう。
と、考えていたら、「俺が頼んで俺から一口、とかなら食べる?」とか言って頼もうとしだしたので、「じぶんひとりで食べないならたのむな」と止めた。
そこで止まるあたり、やっぱり自分が食べたいのではなく、フィオラに食べさせたいというのが先にある気がする。そこまで世話される覚えはないのだが。
そんな問答を経つつ、なんとか何事もなく退店し、帰路に着く。
結局休みのギリギリまで付き合わせてしまったことに謝ると、「俺がやりたくてやってるんだから、フィーは気にしなくていい。むしろ頼ってもらえてる感じで嬉しいしね」などと言った。人がよすぎないだろうか。
部屋まで送り届けられ、食料を仕舞うのまで手伝われ、最後には「食事時にでも様子を見に来るよ」だ。何がルカをそこまでさせるというのか。
(この姿……幼子だからか?)
もし知人が、突然小さな子どもの姿になったら自分はどうするか、と考えてみる。
(確かに世話を焼いてしまうかもしれない……こういうのは庇護欲というのだったか?)
幼子は、幼子だというだけで、なんとなく手助けしてやりたくなるものだともいう。ルカの態度も仕方ない……といえば仕方ないのかもしれない。元々『一番の友人』を自称しているくらいなわけだし。
(ルカはどんな子どもだったんだろうな……)
ルカがシュターメイア王国に来たのは、この辺りではもう成人とされる歳を過ぎてからだった。
シュターメイア王国の成人年齢は他国に比べて遅いと聞くから、おそらく既に成人として扱われて幾らかは経っていたのだろう。その姿しか知らないので、幼いルカというのが想像がつかない。
(あの顔が、幼くなったとして。かわいいというよりは、きれいな子どもだったろう。少し、見てみたかった気もする)
ガレッディ副団長が言っていたように、子どもの姿になれるというのは潜入捜査にも有用だ。元の姿に戻ったら、この事象を起こせる魔法について研究するのもいいかもしれない、などと思いながら、フィオラは疲れに身を任せて眠りに落ちた。
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