ミライノハナシ [1,029文字]

ミミズクが遠くで鳴いている

雷鳥らいちょうの羽ばたきが聞こえる

いずみのほとりには丸太小屋があって、私はそこで暮らしている


水音みずおとが絶えず聞こえるのは、裏手に滝があるからだ

ランタンなしで小屋を取り囲む深い森へ入るのは

いのち知らずのすることだ


未踏みとうの地へ赴かんとするならば

螺旋らせんの終わりを目指すのが良い

き着けるかどうかは、分からないけれど


えない何かに護られているような気になったとしても

雷鳴らいめいが聞こえたらすぐに引き返さなくてはならない

いのりの声は掻き消され、神にも届かなくなってしまうから


見知みしった場所へ戻れなくなってしまったら

乱反射らんはんしゃする光を見つめるといい

くべき道が見えてくる筈だから


の在り方を常に考えなければならない

来客らいきゃくは大抵の場合突然現れて

いつだって迎え手は己の準備不足を思い知らされるのだ


みみを澄ませば分かるだろう

落日らくじつと共に目覚め、活動を始めた

き物たちの奏でるさざめきが


未完みかんの絵本をその切り株の上に置いたままにしてはいけない

落書らくがきまみれにされてしまって

いい気分のまま物語を終えることが出来なくなるに違いないから


水色みずいろのハンカチーフを私に差し出すお前の指は傷だらけ

ライラックの刺繍が美しいけれど、私にはその傷だらけの指こそが何より美しい

いい物が出来たと喜ぶその顔を私によく見せておくれ、そう、もっと近くに


味方みかたは多い方がいい

ラワン材の家具を狙う輩を見極めねばならない、ずっとずっと大事にしておきたいと願うなら

いくら気を配ろうと、身内に対する目は緩むものだから、注意はし過ぎるくらいが丁度いい


なりを整えるのもいい、お前の美しさが私以外の物になることを想像したくもないけれど

落葉樹らくようじゅの生い茂るこの森のどこに隠れ潜んでいようと

いつ何時迎えが来るとも知れぬ世になってしまった


られている、値踏みされている

楽園らくえんのようだった此の土地は汚されてしまった

異形いぎょうの者たちの無作法な荒々しさによって汚されてしまった


見下みくだしていた筈の外宇宙の者たち

ライムグリーンの皮膚を持つ彼らを

いてはならぬと追い出さねばならなかったのに


見栄みえなど張らずに、外聞など気にせずに

来世らいせで逢いましょうと

ってしまえば良かったのに


みずから考えようとしない先導に付き従わねばならぬ事ほど虚しい事はない

乱戦らんせんに巻き込まれ、死んでくれた方がよほど為になるだろう

今更いまさら後悔しても、もう遅い


ミルクはもう少しだけ残っている

ラム肉も少しだけ

イチゴはジャムにして

ハーブも干してある

つらいと泣く前に

いい思い出を語ることにしよう

えがおでいるのが一番だから

ただ、えがおで

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る