同窓会の案内葉書に丸印を付けながら思うこと [1,849文字]

 高校の同窓会の葉書が届いて、私は思わず顔を綻ばせる。

 高校三年間、私の青春。

 私が一番好きだった人と過ごした三年間。


 出席の二文字に丸印を付けながら、私は高校生活を思い出していた。


 最初の授業で、私の落とした消しゴムを拾ってくれた。

 あれが運命の瞬間だった。

 私は彼のことが気になって、気になって、そして思わず同じ委員会に立候補までしてしまったのだった。

 美化委員の仕事は結構大変だったけど、彼と一緒だから辛くなかった。

 委員会の仕事で遅くなっちゃった日、しかも雨が降っていて。

 傘を忘れた私に、入っていくか?って。

 私はもう、彼のことが大好きになっていて、帰り道、好きですって言ったんだっけ。

 雨音に紛れて聞き取れなかったかとおもったけど、しっかり聞こえていたみたいだった。

 彼は、クラスのやつらにバレると恥ずかしいからそのことは黙っててって。

 可愛いよね。

 私は勿論、と頷いて、それから私と彼の秘密のお付き合いが始まったの。


 体育祭、文化祭、クリスマス、お互いの誕生日、記念日、どれもこれも楽しかった。

 二年生になってクラスが離れちゃったけど、私はいつも彼と一緒だった。

 たまに付き合ってんじゃねーの?なんてからかわれる時もあったけど、彼は必死になって否定していたっけ。

 少し寂しいって思うこともあったけど、でも我儘は言っちゃダメだなって我慢してた。

 約束通り、秘密。


 卒業式の日、私は勇気を出して彼に言ったの。

『私たちのことをみんなに言いたい』って。

 そしたら彼、泣き出しちゃったの。

 どうしたのかと思ったら、彼、夢を叶えるために地方の専門学校に行くんだって。

 だから私とはもう逢えなくなるって。

 それで泣いちゃうなんて本当に可愛い!

 私も彼について行きたかったけど、私はお父さんに決められた大学に入学しなきゃいけなかったから、辛かったけど笑ってお別れしたの。

 貴方の夢が叶うのを応援してますって言って。


 彼も同窓会に来るのかな?

 逢えたら嬉しいな。

 夢、叶えてるかな。



------



 高校の同窓会の葉書が届いて、俺は思わず顔を引き攣らせる。

 高校三年間、俺の地獄。

 俺がキチガイに追い掛け回された三年間。


 欠席の二文字に丸印を付けながら、俺は高校生活を思い出していた。


 最初の授業であいつの落とした消しゴムを拾った。

 思えばあれが悪夢の始まりだった。

 あいつは俺が押し付けられて美化委員になると、急に美化委員に立候補してきたんだっけ。

 美化委員の仕事は結構大変だったけど、まあ嫌な先輩もいないしそれなりだった。

 委員会の仕事で遅くなった日、雨が降っていた。

 あいつは傘を忘れたらしかった。

 まだ俺はあいつのやばさに気付いてなかったから、傘に入るか、なんて言っちゃったんだ。

 過去に戻れるならあの時の俺をぶん殴りたい。

 あいつは帰り道、俺に好きですって言った。

 俺は断った。

 別その時点では別に好きでも嫌いでもなかったけど、付き合ってから好きになるとか、そういうのは何となく嫌だったから。

 俺は念の為、クラスのやつらに俺に告ったことは言うなよと釘を刺した。

 そんなことがバレれば皆にからかわれることが確実だと思ったからだ。

 あいつは勿論、と頷いた。

 確かに、あいつは俺に告ったことは誰にも言わなかった。

 代わりに、俺につきまとうようになったんだ。


 体育祭、文化祭やクラス行事の時はとにかく俺にべったりだった。

 気持ち悪いくらいに。

 帰り道も、後をつけられていた。

 俺の誕生日には、これ欲しいんだよなーと友達に話していた物が家に届けられた。

 クリスマスにはケーキが玄関前に置かれていた。

 俺の私物が無くなって探したら、あいつの鞄から覗いていて諦めた時もある。

 二年生になってクラスが離れたから安心したのに、あいつは休み時間の度に廊下から俺を見てきた。

 扉の前に立って、ずっと俺を見ているのだった。

 俺への嫌がらせか、単にあいつをからかおうと思ったのか、クラスメイトがあいつに、俺と付き合ってんじゃねーの?なんて言った時もあった。

 俺は必死になって否定した。


 卒業式の日、あいつは俺に言った。

『私たちのことをみんなに言いたい』って。

 俺、思わず泣いちゃったよ。

 怖すぎて。

 私たちのことってなんだよ。

 あいつの中で、俺はあいつのなんだったんだよ。


 俺はあいつから逃げる為、地方の専門学校への進学を決めていた。

 あいつが絶対に受験しないような学校。

 だからそれを言ったんだ。

 もうお前とは二度と会うこともないだろうって。

 あいつ笑って、貴方の夢が叶うのを応援してますって言った。

 

 本当に良かった。

 もう二度と、あいつには会いたくない。

 二度と。

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