決別 [540文字] ※百合
「頼む……殺さないで……」
目の前で必死に許しを請う男の情けない顔に、イライラする。
私が右手を挙げれば、この男の命は終わるのだ。
けれど、そんな簡単に殺してなるものか。
こいつは私の可愛い夏菜子に地獄を見せたクソみたいな父親なのだから。
至近距離で、にっこりと笑ってやる。
許して貰えるとでも思ったのだろうか、ぶんぶんと尻尾を振るのが見えるようだった。
アホか。
私はチラと横目で合図をする。
恭しく差し出されたナイフは私を映す。
美しく磨かれた刀身は、軽く肌を滑らせただけで綺麗な赤い線を生み出した。
幾つもの線を刻んでいくけれど、それは全て何の意味も持たない只の線だ。
「お、お願いします……殺さないで……くださ」
「喋るな」
あぁ、イライラする。
お前は夏菜子に発言を許さなかったじゃあないか。
「喋れば殺す。音を立てても殺す。姿勢を崩しても殺す。お前の未来は、もう決まってるんだ」
夏菜子。
可愛い夏菜子。
私に迷惑を掛けないように必死に虐待を黙っていたのは、献身的だけれど得策とは言えなかったね。
もう二度と、私以外にその肌を見せてなるものか。
「千奈沙ちゃん……」
「どうしたの、夏菜子」
「……もう、いいよ」
「ん?」
可愛い夏菜子。
震えは止まったかい。
「もう、殺して」
「よろこんで」
さぁ、夏菜子。
もう、自由だよ。
お題:至近距離・許しを請う・ナイフ
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