蝟集

「陛下、どうされました……ぬおぅッ⁉︎」


 ぼくの前を歩いていた姫様がビクッと後ずさる。見ると、銃兵部隊の皆さんと王様で囲んでいた物を見たリアクションだったのだろう。

 それはバランバランになって焼け焦げた死体のパーツだった。おまけに、潰れかけた顔が恨めしげにこっちを向いている。それはまあ、そうなるわな。


「すまん、しかし伝えておくべき問題だと思ってな」

「いえ、失礼しました。ご懸念ごもっともです」


 何人いたのか知らないけど、連続発射された攻撃魔法や強固な魔導防壁を見る限り、それなりの人数はいたのだろうと思ってた。アルフレド王の首都帰還を読んでいたのなら、なおさらだ。


「ひとりだけ、ですか? 他は吹き飛んだとかではなく?」

「こいつだけだな。こいつがいれば“他”など要らんとでも思ったんだろう」


 ぼくの疑問に、王様が答える。銃兵部隊の兵士たちも頷いているし、クラファ殿下も納得している風だ。

 半壊した生首を見ると、髪も耳も長いエルフの特徴が残っていた。転がっていた魔術杖ワンドはデカいフォークみたいな妙な形のものが一本だけ。こいつは、有名人なのかな?


「姫様、もしかしてエルロティアの精鋭ですか?」

「違う。いや、精鋭ではあるんだろうが、前線に立つような者ではないのだ。こいつは……賢者だ。比較的下位の“銀杖持ちシルバー”とはいえ、並みの魔導師が束になっても敵わん相手だ」

「賢者か……そんなのがいるんですね。たしかに賢者なら、図書館や研究室にでもいた方がわかりやすいですが」


 半分は独り言のつもりで口に出したぼくを、アルフレド王が不思議そうな顔で見る。


「異界にも賢者がいるのか」

「一般論として“賢い人”、くらいの意味ですが。知識の集積と一般への拡散が進んだので、職業や職種としてはないです」


 たぶん。国によってはあるのかもしれないけど説明が面倒なので省く。

 なんだか王は詳しく聞きたそうだったけど、サシャさんの“目が笑ってない笑顔&咳払い”で不承不承、仕事モードに戻る。


「こいつが出張って来たなら、エルロティアが本格的に関与してくるのも時間の問題なんじゃねーかって話だ」

「そう、それです」


 思い出した。ぼくは怪訝そうな王様たちに尋ねる。


「狼煙……烽火ほうかを上げた理由です。招集したよんだ相手は、誰なんです」

「さっき伝わる範囲を聞いていたな。マークスが気にしていたのは、それか」


 なるほどな、とアルフレド王が頷く。周囲の兵士やサシャさんたちは既に動き始めていた。


「姿を見せた盗賊団の拠点はすぐそこ、呼ぶような仲間はいない。だったら、盗賊団がエルロティアの魔導師たちを呼びつけた? ないな。平時ならば直接口を利くのもありえんくらいの存在だ」


 だったら、エルロティアの魔導師たちが、“本隊”を呼んだという方が自然に思える。


「全員、“くるま”に戻れ!」

「陛下、姫様、敵の侵攻方向は北側の想定で良いですか」

「だろうな。首都に戻るおれを確実に仕留めるなら、二叉路わかれみちより北だ。南は遮蔽がないから銃の的にしか……ああ、くそッ」

「陛下?」

「マークス、違う。敵が来るのは南からだ」

「へ?」


 急に髪をワシャワシャし始めたアルフレド王を前に、ぼくは当惑する。サシャさんが困り顔で説明してくれた。路肩の土に残った深いわだちを指す。


「あれだけの重量を持った車両を使用していることがわかっているんです。敵は、こちらが海岸線を通る想定だったのでしょう」


 そうね。ぼくもそちらをお勧めするところだった。海岸沿いに出た場合どうなったかは不明だけど。


「敵が南から来るのであれば、BTRこちらが追撃を押さえます。ハンヴィーは先行して進路確保をお願いします」

「わかった」

「M240は銃身加熱に注意してください。全てを倒す必要はありません。ハンヴィーの運転も、無事に通過することを最優先にしてください。攻撃を無理に避ける必要はないです。ハンヴィーの装甲でも、さっきの攻撃魔法くらいなら止められます」

「わかった。お前たちは、大丈夫なのか?」

「問題ありません。BTR装甲の装甲は、ハンヴィーよりずっと厚いですから」

「ほお」


 気の抜けたような声を出すアルフレド王に、クラファ殿下はひどく嬉しそうな顔で笑った。


「装甲だけではないですよ、陛下。“びーてぃあーる”が強いのは、武装もです」

「……ああ、それはもう知ってる」

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