無意味な人生に送る人間の讃美歌

あがつま ゆい

無意味な人生に送る人間の讃美歌

「人生に意味などない」

 人生に意味があるか、あるいは無いか、と言う終わりなき論争にはこの説を支持する。


 そもそもスタート地点から言って、両親の「子供が欲しい」というわがままな願いの元、精子と卵子が結合した結果に過ぎない。

 こちとら産まれたいと願ったことも、こんな人がお父さんお母さんだったらいいのに、などと思ったことも無い。

 欲を言えばそれこそ誰だって石油王の息子やどこぞの財閥ざいばつの会長の娘に産まれたかったはずだ。


 そんな始めたくもないのに強制的に始めさせられた人生には「偶然」も「必然」も、ましてや「運命」なんてものはない。

 例えば、確率1%の当たりが入ってるガチャを2回連続で当たったとしよう。そこには運命なんていうものはない。

 ただ単純に「1万分の1の確率で起こる」のであってそこに必然だの運命だのはない。ただ機械的に引き続ければ出るものだ。


 では「モノツクリ」には意味があるか? というとそこまで上等なものではない。

 ただ単に地球を掘り起こして、掘り起こした塊を金だのチタンだのと言ってありがたって工場に運び塊にする、それを切った木や黒い油の加工品を別の工場で加工してるだけだ。

 これを見ているであろうあなたが持っているパソコンやスマホだって、地球から掘り起こした「キンゾク」なる塊や「セキユ」なる黒い油を加工しただけの代物だ。




 じゃあやりたいことを見つけてそれに打ち込めばいいのでは? というがそれもダメだ。現役当時は世界的大スターだったビートルズのリーダー、ジョン・レノンは


「ビートルズは、欲しいだけの金を儲け、好きなだけの名声を得て、そして何も無いことを知った」


 と言ったし、昔は千円札にも描かれ、文豪として後世に残る多大な功績をあげた夏目漱石は、死の前年に書いた随筆で


「今まで書いた事が全く無意味のように思われ出した」


 と残している。それも当然のことだ。なぜなら、人生に意味なんて最初からなかったからだ。




 ではそんな人生、生きても死んでも同じか? と言われるとそうではない。矛盾しているがあえて言おう。そして、これこそ本当に言いたかったことである。それは……




「人生には何の意味も無い」が「それでも意味を見つけ出そうとする」という矛盾した行為こそ! 人間なのだ、という事。




 人間は意味のない事には耐えられない。朝に穴を掘って夕方にその穴を埋めるという、何の意味も無い作業を繰り返すだけで人はいとも簡単にぶっ壊れて自殺してしまう。

 だから人間というのは何としても意味を見つけ出そうとする。

 人間は木の板の木目にも何かの意味を見出そうとするし、サザエさんのじゃんけんを記録して統計を取ってそこから意味を見出そうとするものである。

 これこそが人間ではないだろうか?


「人生は無意味だ」という圧倒的真実を知りながら「それでもあえて意味を見つけ出そうとする」という矛盾した行為。その矛盾した行為こそが人間臭い、人間の意地とでもいうべき何かがあるのではと思う。

「人生は無意味だ」という事実を知ったうえで「それでも意味を見つけ出そうとする」というのが非常に、とてつもなく、狂おしいほどに人間臭い。

 ああ人間だ。人間がただの動物ではなく知性を持つ知的生命体である人間たる理由、人間の根源たる部分、究極的には、人間そのものではないか!


「人生には何の意味も無い」というくつがえしようのない事実に「それでも意味を見つけ出そうとする」その行為、何と人間臭い事だろうか!

 実に、実に人間臭く何と素晴らしい行為だろうか! これはまさに人間の讃美歌であると言っても決して過言ではない! よく「生きることは素晴らしい」と言うがそれはこの矛盾が素晴らしいからだろう。

「人生は無意味だ」という既に決まっている答えに対し「それでも意味を見つけ出す!」と矛盾を武器に反逆する姿勢! これは賞賛に値する行為である! だから生きる事は素晴らしいのだ!


「人生には意味なんて無い」だが「それでも意味を探そうとする」この矛盾! この相容れぬ矛盾こそが人間そのものなのだ!!

 矛盾こそ! 人間を人間たらしめる、人間の存在意義そのものなのだ!

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