第29話 『うしろの正面』

Y子さんはその日、

家に帰るのが深夜になってしまった。


人通りのなくなった道は

シーンとしていて心細くなる。


すると背後から


――コツン、コツン


と革グツの足音が聞こえてきた。


しかも、ふたり分。


ふたり分の足音が

Y子さんのあとをついてくるのだ。


おどろいて

とっさにふり向いたが


そこには

だれもいない。


だがふたたび

Y子さんが歩き出すと


またふたり分の足音が


――コツン、コツン


とついてくる。


背筋が寒くなり

もう振り返ることができなくなった。


そのときY子さんに

いいアイディアが浮かぶ。


自撮りをするふりで

自分の肩ごしに

背後のだれかを撮影しようというのだ。


さっそくY子さんは

スマホを取り出し

写真を撮ると

歩きながら画面を確かめる。


すると

そこには


両手両足に

革グツをはめ


四つんばいで

追ってくる


男が写っていた。

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