第3話


 


 商店街のポスターか。

 引き受けたはのはいいが、そんな物貼られてうっかり由那に見られたら死亡アウトだな……。 アイツとは商店街禁止。


 しかしあの会長おっさん、張り切り過ぎて撮影明日って……急すぎんだろ?


 今日は金曜日、つまり明日土曜日には由那が来る。

 今日の内に電話して、明日は適当に理由をつけて日曜まで来ないように言わないとな。


 と、考えている内にアパートに着いた。



「おい明日香、言っとくけど家には入れねーぞ」


「いいわ、どうせ明日会えるし。 でも、せっかく篤人くんが好きそうな下着を着てきたのに、残念だわ」




「………」




「それじゃあ、明日ね」


「………ああ」



 男子高校生には猛毒な台詞を残し、明日香が去っていく。



 ………どんな、下着かな……。



 ――はっ! ば、ばかやろう! これは罠だ、初歩的なハニートラップだぞ?


 色欲に傾く自分に言い聞かせていると、歩いていた明日香が急に立ち止まり、



「やだ、食い込んじゃう」



 ―――なっ!?



 そ、それって “T” ?

 Tから始まるバックなのっ?! 始まるのにバックとはこれ如何に?!



「あ、あす―――」



 は、ばかちんちん!! 呼び止めたらいかーーん!

 思わず声が出た口を、咄嗟に防衛本能俺の手が塞ぐ。



「………なぁに? 篤人くん」



 ――チィッ! 聞こえたか!


 後続を止めた俺の声を、耳ざとくキャッチした明日香が振り返る。



「な、なんでもない……気をつけてな」


「ええ、それじゃ。 あっ……靴紐が……」


「――なっ!?」



 何故かに、膝を曲げないまま身体をお辞儀して靴に手をやる明日香。


 当然その白く細い足の露出は高まり、制服のスカートが上がっていく……。



「あ……あかん……て……」



 や、やめろ明日香……それ以上は………それ以上は “こんにちは” してしまうッ!



「――あ……」




 ―――“こんにちは” 〜〜♡



 今日はとても良いお天気パンツですね。(にこっ)


 柔らかい日差しおしりで、絶好のピクニックハプニング日和っ!


 さぁ出かけましょう〜〜ピクニックハプニングへ〜〜―――はぅあッ!!



 ………あ、あぶねぇ。


 思い出したぜ、下手を打ったな明日香。



「おい明日香、茶番はそこまでだ」


「っ!……なに?」


「お前の靴、靴紐なんてねーだろーが」

「ちっ!」



 その違和感が俺を正気に戻した。

 甘かったな明日香、俺はリアリティを重んずる男だ。 下半身マイサンはまだ正気を取り戻していないようだが……。



 やっと諦めたのか、明日香は今度こそ去っていた。

 さらばだ、白と水色のボーダーTバックよ……。



 さて、なんて言って由那を納得させるかな? 明日はちょっとピクニックに………まだ引きずっとるな。


 ん? なんだ、明日香からラインが……。



『紐パンだったのに』



 ―――てぃ、Tでボーダーで紐パンだとぉぉっ!?



 ………追いかけたら、間に合うかなぁ。



 ってばかばか。

 邪念を振り払い、アパートの階段を登りながら俺は由那に電話をする。



『はーい』


「あっ、由那? オレオレ」



 軽い口調で話し始め、家の前に辿り着く。

 そして、ドアを開けた時―――。



『あー、さっきまで “元カノ” のパンツ覗いてた “あっつん” かー」


「そうそう、そのオ―――………れ?」



 途中から、電話の声と肉声が混じり合った気が、した……が………。 てか、パンツ覗いて……た?



「ふふふ、大好きなあっつんに早く会いたくてぇ、もう来ちゃったんだ♡」


「……そっ、かぁ………」



 どうりで、電気ついてると、思った……。



 俺は、震える手でドアを閉め、ベッドの上に座る笑顔の由那を………どんな顔で見ていたのだろう……。



「早く帰って来ないかなぁ〜って外見てたらさ」


「う、うん……」



 身体が震える。

 まだ靴も脱げず、俺は由那から視線を逸らす事が出来ない。 逸らしたら……



 ―――られる。 本能がそう告げている……!



「何が………見えたと思う?」


「由那……… “蜃気楼” って、知ってるか?」





「ねぇ……」





「――はっ、はいっ!」



 声色トーンが、変わった……。


 たった一言、それだけで空気が張り詰める。

 俺の好みに合わせた由那のセミショートの少し明るい髪が、風の無い部屋で揺らめき出す。



「10月の気温で蜃気楼見える程日本って灼熱なの?」



 今、今見えそうです蜃気楼っ! その怒りの熱が部屋を灼熱にぃぃ……!

 ゆ、由那さん、目が赤いっす……。 普段は幼顔の可愛いその瞳が……焼けるような赤っす……!



「お、温暖化が……」

「オゾン層より先にその身体に穴開けてあげよっか?」



 地球温暖化篤人軽量化?!



「あ、穴の規模によるけど、多分、死んじゃうなぁ、僕……」


「穴はねぇ、こーんぐらいっ!」




 ―――そ、それはッ!!




 由那が俺に突きつけて来たのは、昨日買ったばかりの愛しの “新作ゲーム” 。



「……そのCDぐらいの穴、かぁ。 死んじゃうなぁ」


「そっか、あっつんが死んじゃったら、私泣いちゃうな」


「は、はは、優しいなぁ由那は。 今日のワンピース可愛いね、あっ、また胸大っきくなったんじゃない? も〜ホント由那ったら―――」

「泣いちゃうから、に死んでもらおーかな?」


「――ッ!! ま、まて!」



 お、俺の新作ゲームが、由那の手の中で “海老反って” いるっ!!



「……言い訳があるなら聞いてあげる、CDこれが真っ二つになるまでね」



 ――ま、まずいっ……! 反りが強くなって……!



「か、勘違いするな、いつも一緒に帰ってると思ってねーか? 寧ろこんなのは始めてだ!」


「……どうやって信じろって?」


「俺は登校する時も下校する時も、いつも隣に由那を感じてる、そこには誰も入るスペースなんてないんだっ!」


「あっつん………わ、私も、だよ……」



 おおっ! 海老反りが早朝の伸び程度まで弱まった!



「でも、楽しそうに話してた……」


「何を話してたかも覚えてない、だって俺は……お前の事を考えてたんだ!」



 どうやって明日来させないよーにするかだけどな。 許せ由那、35%オフの為だ。



「私の事しか、興味ない?」


「当たり前だろ、今だって、早く傍に行って抱きしめたいよ」



 その新作ゲームCDをなぁッ!



「あの子のパンツ、覗いてたクセに」

「ああ、あのボーダーのTバックがまさか紐――」




 ―――『パンッ』……と乾いた音がした………。




「……ぱ、ぱん?……つ? っっつッ!? やぁぁぁぁぁッ!!!」




 うそ………うそよ! こんな、こんなのッ………!!




「………良かったねあっつん、身代わりに―――死んでくれたよ、CDコレ



 ――ねぇ………ねぇっ!


 返して………新作ゲームあの子を返してよぉぉぉぉぉ!



「今日は床で寝てね、でも抱いてれば?」



「……う……ぅぅ……」



 俺の、俺の愛しの新作ゲームが………バラ売りされたバウムクーヘンのように………。



 ゴメンな、俺、守りきれなくて………。


 キレイ………だ。 裏面が、キラキラしてるよ?




 今夜は、一緒に寝ような…………。



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