手紙

バカの手紙

　俺さ、見ちまったんだよ。

　うん？　俺は誰なのかって？　手紙の差出人のところに名前と住所に電話番号も書いてあっただろう？

　何でそんなものを書くのかって？　本当に質問の多いヤツだな。

　分かりやすく言ってやろう。これは脅迫なんだよ。

　俺さ、見ちまったんだよ。

　お前がショッピングモールで盗みを働いているところをな。

　うまくやったよなあ？　店内の死角になる場所に隠れてそのまま閉店まで潜み続けて、誰もいなくなったら行動開始。

　盗んだ物もフリマアプリでさっと売り抜けられるヤツばっかりだったな。携帯ゲーム機に美容家電、高めの腕時計。かさばらないし、場所も取らない。

　別にいいさ。俺の懐が痛む訳でもないしな。

　金なんて天下の回りもの、右から左に横に動かしていくだけで経済が回るんだ。金のないヤツには安値で欲しかった物が手に入るし、あんたも盗品を売りさばいた金で何か買うはず。それで相手の店も儲かる。

　盗まれた店も保険で金が戻ってくる。三方良しってヤツだ。

　その三方に俺も混ぜてくれよって話でさ。そのおこぼれを俺にもちょっとばかり分けてくれよ。

　まさか今さら嫌とは言わせないぜ？　盗品売買で儲けたその半分でいい。封筒に札を入れた雑な感じで送ってもいい。そのために名前と住所を書いてやったんだからな？

　手渡しがいいならそう言ってくれ。またここに電話してくれたら落ち合う場所を教えてやる。

　うん？　何だって？　何で俺がお前の盗みを知ってるのかって？

　バカか？　そりゃあこの目で見ていたからに決まってるだろ。

　何？　バカはどっちだ？　どういう意味だ？

　俺もそこにいたって意味になるだろって何の話だ？　当たり前だろうが。閉まった店内に俺がいたんだから、お前の悪事を一部始終見れたんだよ。

　あ……。

　いや、違うんだ。俺もその場にいたってことは、盗みをしようとしてたわけじゃなくてだな。ほ、ほら……警備とかそういう仕事だよ。分かるだろ？

　何？　警備なら窃盗の現場を見過ごした職務違反で訴えられるだ？

　いや、そりゃあお前、俺だってお前が窃盗犯で何するか分からねえから、それで……何もできずに……。

　怖いのに何で脅迫したのかって？　いや、これは脅迫じゃなくて……。

　警察に届け出る？　そもそも盗みなんてしてない？

　待てよ、待てって。ああ、しまった。差出人名に住所と電話番号まで書いちまった。

　あれは忘れてくれ。嘘の名前と住所に電話番号なんだ

　実際にこうやって話してるじゃないかって？

　あ……。

　ち、違うんだ。俺は、ただ──。