やはり悪人より

 最初はさ、カツアゲとかしてたわけ。

 まあガキだったし、知恵もなかったしな。単純に面白かったんだよ。

 そのうち、もうちょっと刺激が欲しくなってさ。

 だからダチとつるんで、しょうもなさそうなおっさん見つけちゃ、狩ってたわけよ。

 色んなヤツに聞かれたけど、金なんて二の次だった。

 そりゃたまには財布から万札抜いたりしてたけどさ、路地裏に追いつめてションベン漏らしてるのをボコったり、土下座してる顔面に蹴り入れて前歯折ったりしてるのが、ただ楽しかったんだ。

 いつの間にかできた舎弟と、ナンパした女をマワしたりして盛り上がって。

 マッポとの追いかけっこも結構ワクワクしてさ、一度拳銃奪ってみたら、そのお巡り泣きわめきながら逃げやがったんだ。

 さすがにこりゃヤベえなって公衆便所に隠してたら大騒ぎになってさ、結局そいつ首吊って死にやがったんだよ。

 あれは最高に楽しかったな。

 でもさ、そんなの十代の頃だけだろ?

 二、三回入った少年院もそれなりに面白かったけどさ、二十歳超えたら色々やること増えたわけよ。

 まず本気で愛した女ができた。

 二発ぐらいでガキができちまって、最初は面倒だったから堕ろさせたんだけど、それでもできちまったから産ませたんだ。

 風俗に行かせたけど、それじゃ稼ぎが足りねえ。ミルク代にオムツ代もかかるだろ?

 その頃はまだ俺を慕ってくる舎弟もいたんだ。バカばっかだから、まとめて食わさねえといけねえ。

 だから腹くくったわけよ。

 オレオレ詐欺とかダルいいことやってらんねえから、空き巣に押し込み、恐喝みたいなのでだいぶ稼いだな。

 初めて人を殺したのは二十五んときだった。

 金持ってるって聞いたジジババの家に押し込んだらさ、そこのクソジジイがナタでやりかえしてきて。だから台所の包丁でメッタ刺しにしてやったんだ。

 んで、捕まっちまった。

 弁護士のヤローは正当防衛で無罪にさせるとか息巻いてたくせに、いざとなったら罪を認めてジョウジョウシャクリョーを狙えとか言いやがったから、舎弟を使って殺してやった。

 二人目の弁護士はイカレポンチでさ。そいつが張った罠にハマって、俺は二十年の刑期になっちまったんだ。

 あのヤロー、当時はメッタメタにして、殺して、刻んで、イヌの餌にしてやりてえって思ってた。

 うん? なんか俺、変なことばっか書いてんな。

 もしかしてあんた、俺のことを怖いと思ってるだろ? いや、分かるぜ。俺だってこんなヤツから手紙もらったらびっくりするしな。

 でもさ、俺は生まれ変わったんだ。

 二人目の弁護士のおっさんはさ、俺に心の底から改心してほしくてワザと有罪にさせたらしい。

 そりゃ最初は怒り狂ってたけど、お務めをしてくうちに今までの人生を見つめ直したんだ。

 そしたら、気づいちまった。

 俺がどんなに悪人で、周りの人を困らせてきたのか。

 刑務所にゃ色んなワルがいる。

 俺も入る前はもっと悪いヤツがいると思ってた。そしたら――俺が一番ワルだったんだ。

 盗みをしてたヤツには「女を犯すとか人間じゃねえ」って言われた。レイプ犯には「人殺しは悪魔の仕業だ」とも言われた。

 人殺しもいたけどさ、みんな事情があってやったことだった。俺だって正当防衛だったはずなんだ。

 だけど、あのクソジジイをメッタ刺しにしたのは楽しかったんだよなあ。

 んで、俺は気づいちまったんだ。俺自身がバケモノだってことに。

 どうしていいか分かんなくて、毎日泣いて過ごした。

 殺しちまったあのじいさんの名前を唱えて、ひたすら成仏を願った。

 金を奪ったおっさんも、半殺しにしたヤツも、レイプした女も。名前も顔も覚えてなかったけどさ、本当に悪いと思って朝と晩には謝り続けた。

 でも、俺は変わらなかった。バケモノから人間に戻れなかったんだ。

 刑務所に来てた坊さんに相談した。そしたら「本当に悪いと思うなら、人に奉仕することで返せ」って言うんだよ。

 何だよ、それ。奉仕って意味分かんねえよ。煙に巻こうとしやがって。

 最初はそう思ったよ。でもさ、自分でよく考えろってことだったんだよな。

 だから俺は必死に考えた。何をすれば許してもらえるんだ?

 考えたんだ。バカなりに本を読んで、刑務官に話を聞いてもらったりして。

 そしたら、俺の若いころを思い出した。

 学校もつまんなくて、刺激が欲しくてカツアゲを始めたのがグレるきっかけだったんだ、って。

 十代ってさ、パワーが有り余ってるんだよ。

 どうしていいか分かんなくて、俺らみたいな頭の悪いヤツらが力の使い方を間違えちまう。

 だから、この力の矛先を変えりゃグレるヤツは少なくなると思った。

 もう、俺みたいなバケモノを生み出しちゃいけない。

 夢ができたんだ。

 俺らがいたような食い詰めモノの集まる場所に、スポーツ施設がありゃいい。

 バスケやったりサッカーやったり。有り余る力を運動に向けりゃいいんだ。

 実際、舎弟の中にはものくっそ運動神経いいヤツもいたから、中にはオリンピック行くぐらいすげーのが出てくるかもしれねえだろ?

 もう俺は改心した。

 まだ塀の中だけどさ、やることは見えた。後は突っ走って行くだけだ。

 あんたは不思議に思ってるよな? 相談でも何でもない手紙を何で送ってきたのか。

 そう、これはお願いの手紙なんだよ。

 小っちゃくてもいいから、体育館を作りたいんだ。

 バカどもを遊ばせられるだけのをさ。だからいくらでもいいから寄付してくんないか? ってお願いなんだ。

 いくらでもいい。数千円でも一万円でも。

 あんたはいい人だから、もっと出してくれるよな?

 手紙の宛先の住所に舎弟を行かせるからさ。渡してくれりゃいい。

 だって、住所は知ってるんだぜ?

 今さら一人二人増えたところで――いや、そんな話はどうでもいいよな?

 さあ、寄付を……頼むぜ。

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