30話 単調な作業も楽しく賑やかに

 文化祭までの間、ロングホームルームはすべて文化祭の準備に充てられる。

 騒がしくなりすぎない程度であれば自由に話していいとのことで、私もおしゃべりを楽しみながら作業に取り組む。

 ひたすらに段ボールを黒く塗る。セットに使う物だから、地味ながらも重要な仕事だ。


「バナナ」


「納豆」


「ウナギ」


 段ボール塗りグループの面々が、立て続けに食べ物の名前を挙げる。

『食べ物』をお題にしてしりとりを始めたのは、いまから数分前。

 お題の範囲が広いためか、一向に終わる気配がない。

 次は私の番だ。『き』もしくは『ぎ』から始まる食べ物と言えば……。


「キス」


 天ぷらにするとおいしい白身魚の名前を告げると、一緒に作業している三人のうち、萌恵ちゃんを除く二人が驚いた様子でこちらを見た。


「おー、真菜ちゃん大胆だね」


「文化祭の準備中にキスを要求するとは、さすがクラス公認のカップル」


 当然ながら、私は萌恵ちゃんとのキスを食べ物として例えたわけでも、魚のキスと行為のキスをかけたわけでもない。

 萌恵ちゃんは照れた様子で、「さすがに人前ではしないよ~」と苦笑した。かわいい。


「だよね。それに、キスだけで済まなくなったら大変だから」


 同調してうなずきつつ一言補足すると、今度は萌恵ちゃんを含めて三人とも私の方に視線を向けた。

 あれ? もしかして変なこと言っちゃった?


「真菜ちゃんって、実はけっこう肉食系?」


「い、いやいや、別にそんなことないよ。ね、萌恵ちゃん?」


「……っ」


 助け舟を求めた結果、萌恵ちゃんはなにか――おそらく私とのエッチな出来事――を思い出して頬をボッと真っ赤にして、ごまかすように目を泳がせる。

 エッチなことへの積極性が以前より増しているとはいえ、萌恵ちゃんは根本的に純粋無垢な天使だ。

 予期せぬ展開で急にそっち方面の話につながると、照れてしまうのも無理はない。

 学校での萌恵ちゃんしか知らない人からすれば、この様子を見るだけで一から十まで察しが付いたことだろう。

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