12話 曇天と突風
今日も今日とて、私と萌恵ちゃんはひたすらイチャイチャしている。
二人きりの同棲生活。いつもより早く起きた朝は、誰にも邪魔されずに布団の中でじゃれ合う。
手を握ったり、体を触ったり、撫でたり、ハグしたりキスしたり。
ほどよい時間になれば布団を片付けて、洗顔などを済ませる。
家から学校までの近さゆえか、前日の夜によほどのことがなければ、朝から慌てるようなことにはならない。
「う~ん、いまにも降りそうだね~」
家を出て施錠していると、萌恵ちゃんが空を見上げながらつぶやいた。
鍵をカバンに仕舞いつつ、同じように目線を上に向ける。
萌恵ちゃんが言うように、いつ降り出してもおかしくない曇天だ。
「折り畳み傘があるから、降ったら相合傘できるね」
カバンをポンと叩き、呑気なことを口にする。
楽観的すぎる考えにも思えるけど、萌恵ちゃんと相合傘したいという願望が主なので仕方ない。
「だったら、降ってくれた方が嬉しいかも!」
パァッと笑顔を咲かせる萌恵ちゃんにつられ、私も頬が緩む。
萌恵ちゃんの右腕に抱き着くようにして腕を絡め、それが合図かのように足並みをそろえて歩き出す。
自分からの積極的なスキンシップ。いまとなっては当然のようにできているけど、過去の自分が見たら夢かと疑うことだろう。いや、妄想だと即座に結論付けてもおかしくない。
「濡れちゃったら、体で温め合おうね」
「うんっ!」
なんてやり取りを交わしつつ、極めて道のりの短い通学路を進む。
私たちの関係は学校中に知られているので下手に隠すようなことはしないけど、校門をくぐってからは心持ち軽めの接触が多くなる。
ギュッと抱き合うぐらいなら学校のあちこちで頻繁に見かけるので、周りの邪魔にならない場所でなら遠慮なく行う。
誰かの迷惑になるような行動は御法度だ。当たり前のことだからこそ、肝に銘じておかなくてはいけない。
昔からスキンシップ過多だったためか、萌恵ちゃんはその辺の配慮に関しては無意識のうちに徹底できている。
人目を気にしているわけではないのに、誰かに疎まれるような行為は決してしない。
対する私はコンビニで会計を待つ際に周囲を気にせず抱き着き、通路を塞いでしまったことがある。何度思い返しても、頭が痛くなるような失態だ。
「おはよ~!」
教室に入ると同時に萌恵ちゃんが明るくあいさつすると、あちこちから「おはよう」と返ってくる。
私たちの仲はクラスメイトにとって常識のようなものだけど、いまでもあいさつ代わりに冷やかされることがままある。照れてしまうものの、実はちょっと嬉しい。
前ほどの頻度ではないにしても、放課後になると美咲ちゃんと芽衣ちゃんが一組に顔を出す。
最近の出来事なんかを話しているとあっという間に時間が経ち、今度またみんなで買い物にでも行こうと約束を交わして教室を後にする。
キスやその先を経験したことは、この二人にも内緒にしている。ただ、悟られている気がしなくもない。
あと、これは私の勘でしかないんだけど……美咲ちゃんと芽衣ちゃんも、前よりもっと深い関係になっているように思える。
「結局、ずっと降らなかったな~」
校門を出て二人と別れた後、横断歩道を渡りながら萌恵ちゃんが悲しそうにつぶやく。
相合傘ができなくて残念、という思いがあるのだろう。
「その分、帰ったらいっぱいイチャイチャしようね」
録音して後で聞いたら恥ずかしくなるようなことを、平然と言ってのける。我ながら、よくここまで大胆になったものだ。
これが若さなのかと考えたりもするけど、きっと大人になっても変わらないだろう。
家に着いて鍵を開けるべく扉の前に立った瞬間、体温を根こそぎ奪うような冷たい強風が吹いた。
「きゃっ」
「っ!!」
萌恵ちゃんが突風に顔をしかめてかわいらしい悲鳴を漏らす中、私の目は奇跡の一瞬を見逃さなかった。
突風でスカートがめくれ、萌恵ちゃんの大切な場所を守る純白の布が露わになる。
スカートが元の位置に戻るのを見届けてから、周囲に人目がないかを確認。立地の関係からも、いまの光景を目の当たりにしたのは私だけのようだ。
よし、しっかりと網膜に焼き付いている。
「すごい風だったね」
「ほんとだよ~。髪の毛ボサボサになっちゃった!」
乱れた髪を整える萌恵ちゃんに、心の中で深く感謝する。
相合傘はできなかったけど、嬉しいハプニングが起きてくれた。
とはいえ、私だけが得をしてしまったのは申し訳ない。
「あっ、そうだ。真菜、さっきスカートめくれてたよ。んふふっ、いい物見ちゃったな~」
「えっ」
どうやら、お互い様だったらしい。
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