23話 台風

 台風の影響で、大雨洪水警報と暴風警報が出た。

 外は休校となるのも納得の荒れ具合だ。

 朝ごはんを食べながらニュースを見て、台風の情報を確認。

 猛烈な雨風が窓を叩き、アパート全体が揺れているようにすら感じる。


「掃除でもしようかな」


 私がポツリと漏らした一言で、とりあえずの予定が決まった。

 日頃から清潔感を損なわないよう気を付けているけど、どうしても粗が出る。

 今日は徹底的に家をきれいにするとしよう。


「あたしは台所から始めるね!」


「じゃあ、私はお風呂場を」


 動きやすいよう薄地のTシャツに着替えてから、それぞれ作業を始めた。

 いつもより念入りに浴室の清掃を済ませ、隅々までチェックしてから脱衣所に出る。

 気合いを入れて、洗面台も新品同然に美しく仕上げる。歯ブラシの消耗具合や歯磨き粉の残量も問題ない。

 タオルで汗を拭き、首にかける。

 萌恵ちゃんにも渡そうとリビングに戻ると、台所の掃除を終えてリビングの窓を拭いている最中だった。


「萌恵ちゃん、お疲れ様。汗かいてない?」


「ん~、それなりに。気温が低いからマシだけど、動くとどうしてもね~」


 苦笑する萌恵ちゃんに歩み寄り、渡すために持って来たタオルで額の汗を拭う。


「これ、よかったら使ってね」


 萌恵ちゃんの首にタオルをかけると、「ありがと!」と明るく笑ってくれた。

 汗を一滴残らず舐め取りたい。そんな変態じみた願望をどうにか振り払い、私はカーテンレールを雑巾で拭き始める。




 時間が経つのも忘れ、たまに雑談を挟みながら手を動かし続けた。

 一通り終えて達成感に浸りながら時計を見ると、いつもなら五限目の授業を受けている時間だ。


「遅めのお昼になっちゃったね~。手早く作れそうな物――チャーハンでいい?」


「うん」


 萌恵ちゃんの作る物なら、どんな物でも喜んで食べる。

 だけど、掃除して一息つくヒマもなく炊事させてしまって申し訳ない。


「一仕事終えたばかりなのに、ごめんね」


「全然平気! 真菜が食べてくれるなら、あたしはマラソンの直後だろうと喜んで作るよ!」


 なんて素敵なお嫁さんなんだ。いや、まだ結婚してないんだった。

 あぁ、萌恵ちゃん大好き。

 萌恵ちゃん好き好き! かわいい! 素敵! 愛してる! 絶対に幸せにするからね!


「~~~~っ」


 私は邪魔にならないようテーブルの陰に隠れ、萌恵ちゃんへの想いを脳内で拡散しながらジタバタと転がった。

 この光景を俯瞰で見たら相当な変人に映るんだろうなぁ、なんてことも考えつつ。




 中華料理の専門店にも引けを取らない絶品のチャーハンでお腹を満たし、軽く休憩を挟んでからシャワーを浴びる。

 もちろん夜にもまた浴びるけど、掃除で意外に汗をかいてしまった。何時間もこのままというのは、さすがに気持ち悪い。

 汗を流してスッキリした気分でリビングに戻ると、雨風はさらに勢いを増していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る