21話 激甘
「……な……真菜……好き、んっ……大好きぃ……っ」
朝。おぼろげな意識の中、萌恵ちゃんに呼ばれたような気がして目を開ける。
目の前に萌恵ちゃんの顔があった。
というか、キスされてる!
先に起きた方が相手にキスをして起こすのは、毎朝の恒例だ。
だけどそれは、あいさつ程度の軽いもの。現在進行形で行われているのは紛れもない本気のキス。
しかも、萌恵ちゃんに覆い被さられるような体勢で抱きしめられている。
「んむっ、萌恵ちゃん、おはよ……ぁぅ」
普段は目を覚ました時点で終わるのに、今日は一向にその気配がない。
萌恵ちゃんはトロンとした声で「おはよう」と言い、まだキスを続けるという意思表示のように舌を絡めてきた。
拒む理由はなく、私は返答代わりに萌恵ちゃんの背中に腕を回す。
早朝から濃厚極まりない口付けを交わしながら、一つの確信を得た。
萌恵ちゃんはたまに、驚くほど私に甘えようとする。いつもの過激なスキンシップですらおとなしく思えるほどであり、今日がその日であることはいまなお持続しているキスが如実に物語っている。
平日は学校があるからどうしても密着できない時間が多いけど、幸いにも今日は休日だ。
開催不定期のイベントみたいなものなので、存分に楽しむとしよう。
顔を洗い、歯を磨いた後。
「真菜~、ちゅっ❤」
温かくてぷるんっとした感触が頬に伝わる。洗面台の鏡に映る萌恵ちゃんの横顔はとてつもなく嬉しそうだ。
私は逸る気持ちを抑えられず、少し背伸びをして萌恵ちゃんと目線を合わせ、唇を重ねる。
狭い場所に二人きり。誰にも邪魔されることなく、私たちは一心不乱にキスを続けた。
朝ごはんを作ってくれている間、萌恵ちゃんは私の名前を歌詞に当てはめたラブソングを口ずさんでいた。せっかくなので、こっそり録音しておく。
食事を始め、箸を手に取るや否や「あ~ん」という優しい声と共に一口大の玉子焼きが差し出された。
慈愛に満ちた微笑みに心を射抜かれつつ、パクッと口内に迎え入れる。
「おいしいっ」
素直な感想を声に出すと、萌恵ちゃんは少し照れたように頬を染め、満面の笑みを浮かべた。
驚くべきことに、その後も思考を読まれているかのように私が食べようと思った品が口元に運ばれてくる。
今日だけで何回の「あ~ん」を聞いただろう。気付けば、自分の箸を使うことなく食事を終えていた。
洗濯機を回してリビングでスマホをいじっていると、後ろからいきなり抱き着かれた。
勢いよく飛びつくのではなく、ふわっと包むような優しい抱擁だ。
背中に二つの柔らかい塊を押し付けられ、興奮のあまり鼓動が加速する。
「んふふっ、真菜大好き~」
肩にあごを乗せた萌恵ちゃんが、甘い声を漏らしながら頬ずりしてきた。
甘えん坊だなぁと微笑ましく思いつつ顔を萌恵ちゃんの方へ向けると、容赦なく唇を奪われてしまう。
ただ重ね合せるだけではない。口腔内に舌が侵入し、縦横無尽に動き回る。
無邪気な萌恵ちゃんは、自分がどれほどえっちなキスをしているか自覚していないはずだ。
口の端から垂れた唾液が服を濡らしても、お構いなしに続行される。
二人きりなのをいいことに、ともすれば下品とすら思える音をリビングに響かせた。
あれから夜まで、私と萌恵ちゃんはひたすらに甘い時間を過ごした。
いまは布団に入って電気を消し、もう寝るだけという状況。
「真菜、今日はごめん。いろいろ迷惑かけちゃったよね」
すっかりおとなしくなった萌恵ちゃんが、心底申し訳なさそうに謝罪する。
「ううん、気にしないで。迷惑どころか、お礼を言いたいぐらいだから」
気遣いや冗談ではなく、掛け値なしの本音だ。
行動に支障が出るようなスキンシップも多々あったけど、嫌だとは微塵も思わなかった。
「でも、お風呂のときとか――うわぁあ~、思い出しただけで恥ずかしい!」
そう言われて、私も頬が熱くなる。
シャワーを浴びていると萌恵ちゃんに抱きしめられ、動揺が収まらぬうちに首筋を甘噛みされた。
うん、軽く思い出しただけでムラムラが止まらない。
日頃から大胆なスキンシップを高頻度で行う萌恵ちゃんでも、さすがに今回の一件は特別だったようだ。
「わ、私は、気持ちよかったよ」
「ほんとに? 呆れてない?」
「もちろん。前にも言ったけど、萌恵ちゃんに甘えてもらえるのはすごく嬉しいからね」
「はぅ……どうしよう。ほんとにあたし、真菜がいないと死んじゃうかも。恋愛にあんまり興味がなかったなんて自分でも信じられないぐらい、真菜のことが好き……」
天使かな?
涙が滲むほど嬉しいことを言われてしまった。
たまらず布団の中で萌恵ちゃんの手を握ると、キュッと強く握り返される。
うん、天使だ。
「私もだよ。お互い長生きするためにも、ずっと一緒にいようね」
プロポーズみたいなことを告げると、萌恵ちゃんは「うん!」と力強く返事してくれた。
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