12話 萌恵ちゃんに気持ちよくなってもらいたい

 萌恵ちゃんが絡むと、私の体は有り得ないくらい過敏に反応する。

 些細なことで性的興奮を覚え、簡単に快感を得てしまう。

 萌恵ちゃんがそばにいるだけでムラムラするし、肌が触れ合っただけで気持ちよくなる。

 キスをすれば濡れてしまい、この間なんて愛撫されたわけでもないのに達してしまった。

 ただ、その逆はどうだろう。

 告白の件以降、萌恵ちゃんは私に恋愛感情を抱いてくれている。何度かキスをしたり、以前とのちょっとした変化から、それは疑っていない。

 だけど、いずれ性行為に及ぶ際、自分が萌恵ちゃんを気持ちよくできるかどうか不安だ。

 私だけが快楽を味わっても、それはまったくの無意味。二人で一緒に、同じように気持ちよくなりたい。

 というわけで、私は性懲りもなく対抗策を編み出した。

 これまでに何度か作戦を立てて失敗してるけど、今回は抜かりない。

 仮に失敗したとしても経験を糧に次へつなげられるので、どう転んでも結果的には成功と同義。

 さて、その内容とは。


「萌恵ちゃんがどこをどうすれば感じるのか知りたいから、裸になってほしい」


 日曜の昼間、私は至って真面目な態度でそう申し出た。

 今日は珍しく二度寝をしたので、二人とも寝間着姿で布団も敷いたままだ。


「へ? え? えっと、感じるって、どういう……」


 起きてすぐにこんなことを言われ、混乱しているのだろう。

 戸惑う萌恵ちゃんに、私はハッキリと断言する。


「えっちなことをして気持ちよくなるっていう意味だよ。いずれ迎える本番を最高のものにするためにも、萌恵ちゃんの性感帯を知っておきたいの」


「あぅ……わ、分かった! 二人のためだもん、喜んで協力させてもらうよ!」


 萌恵ちゃんは少しためらった後、意を決してグッと拳を握った。


「ありがとう。寒くないようにエアコンつけるね」


 私はリモコンを操作して電源を入れ、室温を調整する。

 その間に萌恵ちゃんは服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿で布団に座った。


「協力するとは言ったものの、あたしはなにをすればいいの?」


「私が触ったり撫でたりするから、その都度感想を教えて。痛かったり気持ち悪かったりしたら、我慢せずに言ってね」


「うん、了解!」


 それにしても、とんでもない体だ。

 傷一つない珠のような肌。

 規格外のサイズながら重力に逆らいきれいな形を維持する胸、肉付きのいいお尻につながる細くくびれた腰のライン。スラッとした手足。

 ボンキュッボンという一言で済ませるのは罪というもの。

 筆舌に尽くし難い魅力が備わった完璧な存在を前に、思わず生唾を飲む。


「そ、それじゃあ、さっそく」


 私はスッと手を伸ばし、きれいなピンク色の突起に触れた。

 胸の大きさに比例して私の物よりも存在感があるそれは、服を脱いだ寒さのせいか少し硬くなっている。

 指先で円を描くように乳輪をなぞってから、親指と人差し指で先端をつまむ。

 柔らかな乳房とは違うコリッとした感触を楽しんでいると――


「ひぁんっ」


 萌恵ちゃんがビクッと体を震わせ、頬を紅潮させた。

 これは好感触かもしれないと歓喜する間もなく、私は自分の異変に気付く。


「あ、れ……?」


 率直に言うと、鼻血だ。

 違和感を覚えて鼻に手を当てると、手のひらが鮮血で染まる。

 予期せぬ事態に驚くも、急いでティッシュを鼻に詰めた。

 興奮して鼻血を出すなんて、マンガの中だけだと思っていた。


「ごめん、萌恵ちゃん。私が言い出したのに、これ以上は無理そう」


「そ、そんなの気にしなくていいよ!」


 私が出血したことで、萌恵ちゃんの顔色は赤から青に変化している。

 気持ちよくなってもらうつもりが、心配をかける羽目になってしまった。


「ふぅ……」


 壁にもたれかかり、溜息を吐く。


「ご飯の用意するから、安静にしててね。動いちゃダメだよ!」


「うん、ごめんね。ありがとう」


 なんて情けないんだろう。

 恋人を気持ちよくさせるつもりだったのに、こんな形でリタイア?

 自分の不甲斐なさが憎い。

 スキンシップで触れ合うのと、性的な目的で触ることが、これほどまでに違うとは。

 でも、収穫はあった。

 他は試すことができなかったけど、少なくとも乳首を弄れば感じてもらえる。

 そして、私の体は自分で思っているより遥かに、えっちなことへの耐性が弱い。

 本番までに体を慣らしていく必要がありそうだ。

 鼻にティッシュを詰めた滑稽な姿で、私は至極まっとうな結論を出した。

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