13話 いとこの親友
ここ数日で一緒に話す機会が増えてきた美咲ちゃんから、友達を紹介したいという申し出があった。
放課後に教室で待っていてほしいと言われ、私と萌恵ちゃんはSNSで見た面白い動画の話をしてヒマを潰している。
いままさに話題が変わろうとするタイミングで、美咲ちゃんが一組の教室に姿を現した。
斜め後ろには、ジト目とポニーテールが印象的な美少女が立っている。
「お待たせしました。こちらが私の親友、
「……初めまして」
凛とした立ち居振る舞いなので気が弱そうには見えないけど、口数は少ないタイプのようだ。
私と萌恵ちゃんもそれぞれ名乗り、美咲ちゃんと仲よくなった経緯などを話した。
「さっき親友って言ってたけど、二人も幼なじみだったりするの?」
ちょっと気になったので、質問してみる。
萌恵ちゃんはともかく、私はそれほどコミュ力があるわけではない。
自慢じゃないけど、胸を張って友達と呼べるような相手は片手の指があれば余裕で数えられる。
美咲ちゃんは親戚だし数年ぶりとはいえ何度も話した間柄だから、普通に話せただけだ。
「違う」
ピシャリと否定された。
もしかして怒らせてしまっただろうか。
き、気まずい……助けて萌恵ちゃん。
「そうなんだ~。あたしと真菜は幼稚園の頃からの仲なんだけど、二人はいつ出会ったの?」
心が通じた――わけではないと思うけど、萌恵ちゃんが助け船を出すかのように話をつないでくれた。
ありがとう、萌恵ちゃん。愛してる。
「め――じゃなくて、わ、私が中二の春に転校したときに、美咲が話しかけてくれた」
め?
なにを言いかけたんだろう。
どことなくぎこちないというか、慎重に言葉を紡いでいる感じだ。
一度も目が合わないし、嫌われてしまったのかもしれない。
「芽衣さん、緊張してるんですか? いつもと様子が違いますけど。怪しい人みたいです」
「誰のせいだと思ってんのよ! あんたに恥をかかせないように、芽衣なりに普通の話し方をしようと頑張ってるんだからね!」
と、芽衣ちゃんが声を荒げた。
美咲ちゃんは微笑みながらなだめているので、本気で怒っているわけではなさそう。
いや、それよりも。
一人称や話し方が、さっきまでと大幅に違っている。
とっさに出たということは、いまのが素なのだろう。
「恥なんてかかないですよ。芽衣さんらしくしてくれれば、それが一番です」
「そこの二人、引いてない?」
「ん? あたしはべつに。急に怒ったからちょっとビックリしちゃったけどね」
「うん、私も引いてないよ。というより、引く要素あった?」
私自身が世間一般の常識からすればドン引きされるような人間なので、些細なことなら違和感にすら思わない。
なにを隠そう、この瞬間だって萌恵ちゃんの胸に顔を埋めてハスハスしたいとか考えているほどの変態なのだから。
「高校生にもなって一人称が自分の名前だし、口調も子どものときに好きだったアニメキャラの影響を受けてるのよ? 平然と受け入れるなんて正気の沙汰じゃないわね」
語調は強いのに、内容は自虐的だ。
言わんとすることは理解できるけど、私としてはそれほど気にならない。
萌恵ちゃんも同じのようで、なにが変なのか分からず小首を傾げている。
「私も萌恵ちゃんも全然気にならないから、美咲ちゃんの言う通り芽衣ちゃんらしく話してくれればいいよ」
「そう言ってくれると助かるわ。改めてよろしく」
おそらくツンデレキャラが好きだったんだろう。話し方からなんとなく分かる。
本人は素直な性格のようで、今度は気さくにあいさつしてくれた。
「よろしくね、芽衣ちゃん」
「よろしく芽衣! 今度四人でタピろうよ!」
萌恵ちゃんは本当にタピオカが好きだなぁ。
確かにおいしいけど、カロリー高いから太りやす――いや、萌恵ちゃんの完璧なスタイルを鑑みると無用な心配かもしれない。
やはり、余った栄養は胸に吸収されているのだろうか。
「いいわね、賛成よ」
「ぜひ行きたいです」
二人も乗り気だ。
あの癖になる食感と甘み、ミルクティーや抹茶との親和性、やや割高ながら手が出ないことはない絶妙な価格帯。嫌いな人の方が少ないだろう。
友達が増え、一緒に出かける約束もした。順調すぎて怖いほどに高校生活が充実している。
萌恵ちゃんがいれば満足なのは事実だけど、それ以外のすべてがどうでもいいというわけではない。
他の友達も交えて和気あいあいと交流するのも、心から楽しいと思える。
「あ、そうだ。萌恵さん、前に頼まれていた物、持って来ましたよ」
「お~っ、ありがと! もらっちゃっていいの?」
「もちろんです。親がデジカメで撮影したのを印刷しただけですからね」
「んふふっ、お昼寝中の真菜もかわいいな~。あ、よだれ垂らしてる」
ふむ、おばあちゃんの家で昼寝しているときの写真か。
怒って取り上げるほどではないけど、そこはかとなく恥ずかしいから聞かなかったことにしよう。
「真菜、ちょっといいかしら?」
芽衣ちゃんが廊下に出たので、後を追う。
どうしたのだろうと軽い気持ちで様子を伺っていると、周りに誰もいないのを確認してから口火が切られた。
「――あんた、萌恵に惚れてるわよね?」
刹那、時間が停止したような錯覚に陥る。
すぐさま意識を呼び覚まして冷静に考えた結果、一つの難題が浮上した。
芽衣ちゃんの記憶を消すには、どうすればいいのだろうか。
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