想うということ。

蒼月ヤミ

第1話 分からないこと。

 ミステリアスという言葉はとても便利なもので。その響きに騙されて、大抵の女子の頭の中では、どうやら魅力的という位置にあるようだった。

 ようは、何を考えているか分からない、という意味だろう。


 別に、おかしなことを考えているわけでもないし。今日の食事とか、授業とか宿題とか、漫画の事とか。おそらくその辺の男子と同じようなことを考えていると思うんだけど。


 それでも、ミステリアスと言われてしまうのはおそらく、自分があまり顔に感情が現れないからだろうと、何となく理解していた。

 そんな、何を考えているか分からない、無表情の自分でも、「好きです」と今まで何度か言われたことがある。知っている女の子や、知らない女の子。別に嫌いなわけでもなかったから、「そっか」とだけ答えた。だけど、特別付き合いたいというわけでもないわけで。それに続けて、「ごめん」と言おうとするのだけれど。告白という一大行事に舞い上がった少女たちは前向きで、その「そっか」という一言に何の感情もこもっていないことにも気付かなくて。「付き合ってください!」と顔を真っ赤にして続けるのだ。


「……別に、俺は好きじゃないんだけど」


 これはちゃんと言わないと分からないだろうと思い、そう一言、柚木は呟いた。

 冷たいと思われるかもしれないし、実際にそう言われたこともある。けれどこうでも言わなければ、諦めてくれない女の子が多いから、仕方がないとも思うのだ。


「それでも良いです!試しに付き合ってみてください!」


 諦めないどころか、ごく少数ではあるけれど、そう言ってくるたくましい女の子さえいる。

 そこまでくると、素直に凄いと思うのだ。ここまで冷たくして、それでも自分と付き合いたいなんて。

 一体どんな女の子なんだろう。

 少しだけ興味が湧いてきて、「良いよ」と言って感情の薄い顔にうすっぺらい笑みを浮かべて見せる。

 こんなにまで自分を好きだと言ってくれるなら、自分もまた同じくらい好きになれるかもしれない。そんなことを、思いながら。

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