8-7

 瀬川せがわプロデューサーの会社に集まった七つの鍵の所有者と舞風まいかぜだったが、そこで衝撃的な発言が飛び出した。

蒼流の騎士が呼びだしたのは、実際の人間ではなくバーチャルアバターもしくはバーチャルアイドルに類似する存在だったのである。

更に言えば、彼らの設定は原作に忠実でありつつも、一部で差異があると言う事だが――。それを否定したのはマルスだった。

「中の人などいない!」

 彼が否定したいのは、自分の存在が全否定されるような発言が次々と出てきた事で何かが爆発したとも言える。

しかし、それを生み出したのも――SNS炎上勢力なのは間違いない。



 議論を進めていく中、ひとつのショートメールが瀬川の元に届いた。それを送ったのは、何と――。

「見ない名前だ。一体、何のいたずらのつもりなのか」

 瀬川にも覚えがない名前を見て、それを削除しようとスマホに表示されたメール削除のボタンを押そうとする。

しかし、それを止めたのが隣でスマホを見ていたハヤト・ナグモだった。

(ビスマルク? まさか、ガングートと関係のある――)

「瀬川さん、そのメールは消しては駄目です。重要なことが書かれている可能性も――」

 とある考えを思いつき、そこからメールの差出人を逆算した結果、ハヤトはメール削除を止めるように瀬川に頼み込んだ。

「しかし、この名前に聞き覚えはない。WEB小説の登場人物だとして、何の作品なのか即断できないのも大きいだろう」

「それでも、このメールは閲覧して問題ないと思います。舞風さん、あなたもビスマルクの名前には覚えがあるでしょう?」

 ハヤトはメールの閲覧は問題ないというのだが、それと舞風がどのような関係があるのか?

瀬川も若干疑問に思う部分はある一方で、ウイルスチェックも問題ないのでメールの中身を確認する。

(この事実は――本当なのか?)

 そのメールに書かれていたのは、あるWEBサイトへのアドレスとメッセージが一言添えられているだけ。

【鍵の真相、それはこのURLにある】

 一体、これが何の意味を持つのか? URLをクリックして開く前に、メッセージの中身を他のメンバーにも見せた。

舞風はビスマルクと言う名前に若干の覚えがある。実際、ガングートの登場するWEB小説にビスマルクも出ているのだが――。

(まさか、別のビスマルク――?)

 舞風は、とあるARゲームを巡る事件も少し調べており、そこに関係する人物としてハンドルネームがビスマルクと言う人物がいる事を確認済である。

ビスマルクと言う名前自体、様々なサイトで見かける位には有名だ。プロゲーマーがハンドルネームとして使う可能性だって否定できない。

「たぶん、問題はないと思うわ」

 舞風は若干の間隔をあけて問題はないと発言、他のメンバーも反対意見と言っていいものは出なかった。

そして、ウイルスの類も検出されなかった事もあり、URLをタッチしてホームページを開く。



 瀬川のスマホに表示されたサイト、それはWEB小説のスコッパーと呼ばれる人物がお勧め小説を探して公開するサイトだった。

そこで紹介されていたWEB小説、それは瀬川が一番懸念していた作品なのである。

(そう言う事か。これならば納得がいく。全て、ある作品をリアルで起こそうとしているのであれば)

 瀬川の手が震えているのを見て、ハヤトは何となくだが一番恐れていた事が現実化しようとしていると察した。

何も言わなかったのだが、何となく周囲のメンバーも瀬川の言いたい事は――。

「マルス、これはお前が一番止めたかった事ではないのか?」

 ナイトブレイカーの一言を聞き、マルスは瀬川のスマホに表示されたサイトのWEB小説のタイトルを見る。

マルスにとっては始めて見るタイトルのはずなのに、それ以前から知っている様な感じもした。

 他の二次創作がメインとするようなサイトでは、悪意ある炎上を誘導する投稿も多く、そこからカップリング論争等も起こるのは日常茶飯事である。

ビスマルクがメールで送ったのは一次創作オンリーで、そうした論争が起きる事はありえない。

しかし、メディアミックス化した作品などでは論争はあるだろう。それを踏まえて、マルスはその作品を見て――。

「まるで、未来の予言書――アカシックレコードのようにも見える」

 マルスはその作品のサイトにおける紹介文を見ていく内に、まるでこれから起こる出来事を書いているようにも見えた。

それこそ、この小説がアカシックレコードにアクセスして内容を書いたかのような錯覚もするほどに。

「やはりな。全ては――これで一つに繋がる。最初の蒼流の騎士、それが起こそうとしていた事件の詳細が」

 ナイトブレイカーは、その小説が現代を題材とした作品である、舞台が同じ埼玉県草加市、登場人物に差異はあるが同じようなアバター題材である事――。

そこから逆算できるのは、この作品を現実で再現しようと最初の蒼流の騎士が事件を起こしたのだ、と言う事である。

 しかし、既に最初の蒼流の騎士はガーディアンが確保したはず。それなのに、事件が終わりを迎えないのはどうしてか?

更に別の事情があるのか、蒼流の騎士を引き継いだ団長が別の何かを起こそうとしているのか、若干の伏線は回収されたのに謎は増えるばかり。

「SNS炎上、そのキャラが恨みを持って実体化したとか」

「それこそオカルトでは? それに、類似設定を使った作品は検索すればいくらでもあるし」

「じゃあ、あのシステムを使用して、他の鍵を持ったキャラクターも同じように中の人が――」

「それこそ尚更よ。マルスが否定したように、最低でも七つの鍵で呼ばれたキャラクターに中の人はいない」

 ハヤトの発言を速攻で否定したのは舞風の方だった。一次創作と言う縛りがある以上、下手に有名作品と被るような設定は使わない。

だからこそ、舞風が考えていた結論は――。

「非常に特殊な何かが介入した結果、今回の事態になったと考えるべきなのかも」

 舞風は団長とも違う第三者の介入である可能性を提示する。それこそ、明らかに自分達だけでは解決できないだろう。

そして、それが意味するのは一連の事件が『マッチポンプ』である事の証明でもあった。

ガーディアンなのか、SNS炎上勢力なのか、更に別の何かなのか――それは現段階で特定は出来ないが。

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