8-2
怪我をした傷口を含めて物理に該当する負傷は回復しているのだが、黒のシュヴァリエの象徴とも言うべき銃剣は使用できない状態になっている。
これは鍵が使用不能になった事と関係があるのか――即断はできないのだが、何となくそうだろうとは自覚していた。
(あの武器が使えなければ――)
このままでは、何も出来ないままに全てが終わってしまうとも考えていた矢先、草加駅近くの店舗前で立ち止まったシュヴァリエの目の前には、ある人物がいた。
その人物とは
(黒のシュヴァリエ――?)
瀬川も時期が時期だけに身構えようとするのだが、今の彼には抵抗できるような武器も持っていない。
「お前は確か、瀬川と言ったな? 今はそちらと戦う事はしない」
「それは、どういう事だ?」
「こちらも複雑な事情がある。無駄な詮索はしない方が身のためだ。それと、舞風とマルスにも手出ししない」
「了解した。その言葉、信じさせてもらうとするよ」
瀬川は一連の拡散されているニュースを把握し、その上でシュヴァリエの提案を飲む。
下手に敵を増やすよりは、その方が良いと考えた為である。こちら側へ誘おうかと言う考えには――この段階では至らなかった。
その後、何かを渡そうとも考えた瀬川だが、その頃にはシュヴァリエの姿は消えている。結局、彼は何を伝えたかったのだろうか?
それからしばらくして、シュヴァリエは
舞風の方は何か怪しいと感じたようだが、丸腰の人物を疑おうと言う事は一切しない。むしろ、それこそマルスに怒られかねないからだ。
舞風と遭遇し、その後のシュヴァリエは別のゲーセンにたどり着いていた。行くあてがなかった訳ではないのだが、何故かここ之前にいたのである。
そのゲーセンの自動ドアが開くと、そこから姿を見せたのは自分の世界でも似たような装備があったような――と錯覚するような男性だった。
しかし、男性と言うのは仮に分かってもメットを装着しているので素顔は分からない。
『貴様は――黒のシュヴァリエか』
メットのバイザー部分が自動的に展開され、そこから見えた素顔は――シュヴァリエにも覚えがある人物だったのである。
その人物の名前はナイトブレイカー。実は過去にシュヴァリエの登場するゲームにコラボ扱いで参戦した事もあった。
「歴戦の傭兵か。お前まで俺を笑いに来たのか」
シュヴァリエの方は、ほぼ開き直ったかのようにナイトブレイカーに愚痴をこぼす。
それもそのはず、ナイトブレイカーはシュヴァリエと同じ鍵の持ち主だからである。
「笑う? 違うな――」
「だったら、俺に対して勝負を挑もうと言うのか? 鍵も使えなくなった」
シュヴァリエはナイトブレイカー以上に大声で怒鳴り付けるのだが、それが逆効果になる事はナイトブレイカーの態度が示している。
彼の発言に対し、全く動じないのだ。安い挑発に乗るほど、彼は甘くはない。歴戦の傭兵、その称号は伊達ではないのだ。
「ここはゲーセンの前だ。ストレス発散をしたいのであれば、別の手段でするべきだろう」
「まだ笑うのか? それ以上、こちらを馬鹿にするようであれば――」
シュヴァリエは武器が使えない。その上、この世界のARウェポン等は持ち合せもないのだ。完全とは言わないが、丸腰同然と言える。
これ以上、こちらを挑発するようであれば――というような目つきで威圧するのだが、それも効果はない。
「これ以上、SNS炎上を助長するような態度を示すのであれば――」
ナイトブレイカーはメットを再び展開し、シュヴァリエをにらみ返す。
目つきはバイザーの関係上で見えないが、どのような表情なのかは予想できる。
最終的にシュヴァリエは彼の忠告を受け入れ、そのまま彼の指示通りに別の場所へと向かう事になった。
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