ヴァーチャルレインボーファンタジー
アーカーシャチャンネル
第1話:出会い、それが全ての始まり
その日、彼らは現実を直視する事が出来なかったのである。周囲にいるギャラリー、まるで監視されている様な気配もした。
彼は単独でここに来た訳ではない。そして、彼はこの世界を知っていたのである。自分が過去にいた場所――そう認識していた。
覚えがあるのは間違いないだろう。あくまでも『異世界転移』の延長線で日本に戻ってきたのだ、と。
魔法少女、ヒーロー、巨大ロボット、歴戦の傭兵、フィギュア――それぞれが違う外見であり、勇者である彼とは縁がない。
それでも――彼らはある存在と戦っていたのである。その名は『蒼流の騎士』と言う。
彼によってこの世界へ召喚され、そこで「七つの鍵を集めよ」と告げる。果たして、この言葉に何の意味があるのか。
それから数週間前、時を若干さかのぼる。一人の青年は森の中をひたすらに走り続けた。敵から逃げるためだ。
追いかけてくるのは足の速さに似合わないような重装甲の鎧を着ている兵士。鎧の紋章を見る限り帝国軍、敵である事は事実だった。
周囲を見回しても、整備された森と言う訳ではないので逃げ道に適切な道はないだろう。それを把握した上で、彼は――別の女性と共に逃げ続ける。
(このままじゃ、まずい)
青年は空の方を見上げた。自分のいる森の中とは別に、浮遊大陸が存在する世界だ。今までいたような世界とは比べ物にならない。
ファンタジー世界とも言えるような場所で、マルスはひたすらに逃げ続けている。彼は元々、この世界の住人ではないのだ。
帝国軍に捕らわれた姫を救うため、共和国の切り札である勇者として異世界転移でこの世界へとやってきたのである。
「マルスさん、これ以上迷惑を賭ける訳には――」
逃げ続けるマルスに声をかけてきた女性、彼女はマイア。帝国が幽閉していた少女なのだが、その詳細は分からない。
一つだけ分かるのは、自分が帝国へ向かう途中に逃げている彼女と遭遇し、合流した事だけ。マイアに関しては謎が多いのだ。
「君を守らないといけない。そう、自分が思っているから」
マルスはマイアを守ると言う指示を受けた訳ではないのだが、彼女を放置する事は出来ないと考えて逃げているのである。
しかし、帝国軍の兵士は確実にマルスを追い詰めていた。マルスが森を抜けた先にいたのは――。
「貴様が来るのは――想定済。我々は、彼女に用があるのですから」
いかにも貴族と言う様な外見の男が森を抜けた二人の行く手をさえぎる。
このままでは、マルスは負けてしまう可能性があるだろう。多数に分勢、不利であることには変わりない。
戦うしか選択肢のなくなったマルスは、右腕の白銀の籠手から槍と思わしきものを呼び出した。
そして、それを振り回し始め、帝国兵に向かって突撃を始める。相手は一人なのに、マルスの槍捌きに翻弄されているのは帝国の方だ。
それに加えて、マルスは槍以外にも短剣や蝶剣も使いこなす。器用と言うよりも、そうしたスキルで戦っている可能性も高い。
もしくは、彼が異世界から転移したという事で転移時に手に入れた能力だろうか?
(あの人は、やはり――)
マイアはマルスの能力を見て、確信していた。彼が選ばれた勇者の力を持っているのだ、と。
マルスを呼びだしたのは共和国であって、マイアではないのだが――。
「これならどうですかな?」
貴族の男が右手の指を鳴らすと、次の瞬間に姿を見せたのは鎧の巨人である。この世界で言うと、召喚獣と言うべきか?
マルスの方も大体の事は把握していた。召喚獣にも属性があり、その属性を突けば容易に倒せると――。
「危ない!!」
しかし、マルスはあり得ないようなニアミスで、召喚獣の攻撃に耐える事が出来ず――致命傷を受けてしまった。
マイアの声が聞こえた頃には時が遅く、呼び出したシールドで対応するしかなかったのである。
本来ならば、あの巨人は火属性のはず――そうマルスは考えていたのだが、実際には違う属性だったのに加えて、彼が装備したのは――。
「そちらが様々なゲームから知識を得ているのは想定内。こう言う事も出来るのですよ」
明らかに貴族の男はマルスの能力を知っている様な口ぶりだ。彼にはなった攻撃、それは風の刃だったのである。
その刃の直撃を受ければ、いくらなんでも一撃で倒れてしまうだろう。それでもマルスはギリギリの所で踏みとどまった。
次の攻撃が来たら、完全にアウトだろう。そう考えたマルスは、白銀の籠手のリミッターを解除しようとする。
しかし、それはある表示と共に使えなかった。何故、これが表示されたのかはマルスも気付かない。
【システムエラー。アガートラームの封印は解除できません】
白銀の籠手、アガートラーム。それは、自分が呼ばれた際に託された武器だ。
それが動かないなんて、ある物なのか? 意識が遠のいていく中、マルスは――。
「マイア!! 早く、君だけでも――」
マルスの元に駆け寄ってくるマイアに向かって叫ぶ。しかし、その声がマイアに届く事はない。
いくら叫んでも、目の前の光景はノイズが多くなっていき、次第に――別の景色へと変化していく。
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