第485話

 ドワーフの村を出てから二日目にレギュがモンスターの気配を感じ取った。


「皆さん、止まって下さい! モンスターの動く音が聞こえます」


 自身の唇に人差し指を添えて、俺達に静かに行動する様に伝えて来る。


「レギュ、近い……?」

「いえ、まだ遠い様で向こうも私達に気が付いている様子は無いです」

「なら、急いで此処から離れるぞ」


 レギュの感じ取った音の方には行かず、そのまま目的地へと足を進める。


「ベムさん、向こうからも気配がしますので見て貰ってもいいでしょうか?」


「分かった……」


 レギュ続けてベムまでスキルを発動する。ベムの場合は視力や強化だ。自身の視力を強化して、遠くのものまで見渡すことが出来る。


「居た……」

「こっちに向かって来ているッスか?」

「ううん……大丈夫……あのモンスターもこっちには気が付いて無いみたい……」

「よし、ならソイツを避けていく感じで目的地に向かうぞ」


 当初の予定通りベムとレギュのお陰でモンスターに気付かれる前にこちらが気がつく事で、遭遇する事なく目的地に近付けている。


「二人共凄いッス! これなら、安全に目的地まで到着出来るッスね!」

「ふふ……私とレギュが居れば無敵……」

「はい! ベムさんと私が力を合わせたら無敵です!」


 それから俺達はお昼までひたすらジャングルを歩き続けて、本日一回目の休憩を取る事にした。


「腹も減って来たし、昼にするか」

「賛成です!!」


 俺の言葉に直ぐ様レギュが応える。


「私、食料調達して来ましょうか?」

「いや、食料はまだあるから、調達する必要は無いな。昼だし軽く済ませて夜まで歩こう」

「そうですか……分かりました」


 レギュに取ってご飯はの一時はとても大事な時間の為、表情を曇らす。


「レ、レギュ……その分夜は昨日みたいに早めに野宿の準備をするから、その時は狩をして美味しいご飯を作ってくれるか?」


 俺の言葉に、レギュは花が咲いた様に笑顔になる。


「はい! 任せてください! 腕によりをかけて作ります!」


 一瞬で嬉しそうな笑顔になった。


「ふふ……レギュ可愛い……」


 そんな様子をベムが微笑ましそうに眺める。


「ラバさん、狩をする時は手伝って下さいね!」

「任せるッス! 全力で手伝うッスよ!」

「レギュ……今日は鍋が食べたい……」


 ベムの提案に、レギュは自身の胸を叩く。


「お任せ下さい! お肉たっぷりの鍋料理を披露します!」

「おー、想像するだけでお腹が空いて来るッス!」


 それから、俺達はドワーフの村で買った保存が効く料理を鞄から取り出し、昼食を食べ始める。


 保存の効く料理を優先して買った為、殆どの物が干されている食べ物なので、歯応えがあり過ぎて顎が疲れる。


「硬くて噛みきれない……」

「自分も、全然噛みきれないッス……」


 ベムとラバは保存食と言うか、干し肉的なものと格闘するかの様に食べているが、噛み千切る事に苦戦している様だ。


 一方レギュはというと……


「この干し肉、噛みごたえがあって美味しいですね!」

「レギュ……私の干し肉あげる……」

「え?! いいんですか?」

「うん……」

「やりましたー! ベムさんありがとうございます!」


 レギュは干し肉の硬さを全く気にして無い様子だな。


 ……硬えーよ。


 俺も一口食べた。食べられない程では無いが、かなりの硬さがあり、本来は水などでふやかしてから食べる物だと、改めて再認識する。


「自分は強くなる為に頑張って食べるッス!」


 ラバは歯を剥き出しにして、干し肉に噛み付き、腕の力を使って噛み切る。


 ラバよ……その干し肉を食べたからと言って、強くなるわけじゃ無いぞ……


 ラバはあのモンスターの一件以来、少しでも早く強くなりたがっていた。

 まぁ、気持ちは分かる。男なら強くなりたいよな。


 あと二日経てば訓練に最適な場所に辿り着くらしいから、その時はビシバシ鍛えてやろう。


 それから、昼ご飯を軽く食べ終えた俺達は再び目的地に向かって歩き出した。

 休憩を一度だけ挟んだ以外は殆ど歩き続け、レギュに言った通り早めに野宿の準備を始めた。


 少し気になったのは昨日は全然モンスターの気配が無かったが、今日は三回程気配を察知した。


「たまたまだよな……?」


 俺は、一日中歩き続ければモンスターの気配くらいするだろうと、思いその時はそれ以上考えるのを辞めた。


 だが、この時にもっと考えていれば、あんな事にはならなかったんでは無いかと思う……

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