第477話

「あ? お前ら人間族か? ならダメだ俺の宿には泊められねぇーよ! 早く出て行けッ」


 ベムの要望により、俺達は村の観光より、まずは宿を取る為、歩き回っていた。


 しかし、何故か分からないが宿が取れない。


「なんで……宿が取れないの……」


 既に疲れ果てて半分魂が抜けかけているベムはボソボソと苦言を漏らす。


「本当に何でなんですかね? 私達の顔を見た瞬間に断られますもんね」

「それも、これで五件目ッス!」


 そう、なぜか宿の亭主は俺達を見ると何も聞かずに断って来るのだ。

 中には、殴り掛かって来そうな者までいるくらいだ。


「なんか、様子が変だな」


 五件目を断られた俺達は、流石におかしいと思い、四人で頭を悩ませながら歩いている。


 すると……


「──うぉッ?! 冷てッ!?」


 俺は頭から急に寒気を感じ、一瞬何が起きたか分からなかった。

 だが、寒気を感じた次の瞬間には顔が濡れている事に気が付き、どうやら誰かに水を掛けられた事を悟る。


「デ、デグさん大丈夫ですか?!」


 結構な量の水をぶっかけられたのか、俺はビショビショになり、レギュが慌てた様子でタオルを取り出し渡して来る。


「ありがとう、レギュ……」


 水を掛けられたと思った瞬間に周りを見渡すが、どいつも知らん顔をしており、誰が水を掛けたか分からなかった。


「さ、流石に、これは可笑しすぎるッス!」

「ラバの言う通り……私達はなぜか目の敵にされている……」


 ベムも一度、周りを見渡した後に続けて口を開いた。


「でも……デグに水を掛けた人間は良くやったと言いたい……」

「──ッおい!」


 ッたく……ベムの奴……だがベムの推測は恐らく正しい。俺達が村を歩いていると、睨み付ける様に見て来る者が殆どである。それも、その中には女、子供まで居るくらいだ。


 普段、強面の男なんかに睨まれた所で、どうって事無いベムだが流石に幼い子供にまで睨まれると精神的に来る者がある様だ。


「小さい子に睨まれた……」

「ベ、ベムさん……別にベムさんの事を睨んでいた訳じゃないですよ!」

「ううん……あの目は確かに私を見てた……」


 肩を落とし落ち込んでいるベムにレギュとラバが元気付ける様に励ます。


 ああ見えて、ベムは子供が好きだしな……


 それから、もう数件の宿を回ったが結果は同じであり、理由を聞いても、お前らに教える義理はねぇ! の一点張りであった。


 仕方なく、俺達は村の入り口付近まで戻り野宿の準備をする事にした。


「今日はゆっくり休めると思ったのに……」


 先程から、色々と裏目に出ている事でベムはどんどん落ち込んでおり、今では地面を見ながら、歩いているくらいだ。


「ベムさん、野宿の準備は自分がやるッス! だから、ベムさんは休んでて下さいッス!」

「そ、そうですよ! 私とラバさんで準備するので、ベムさんはゆっくりしてて下さい!」


 若い二人に、相当気を使わせているベムは、流石に悪いと思ったのか顔を上げて歩き出す。


「ううん……私もやる……」

「そ、そうッスか……?」

「む、無理しないで大丈夫ですよ……?」


 心配する二人に対して問題無いと答え、野宿する場所まで歩く。村の入り口に戻ってきた俺達は、どこに寝床を作ろうかと、良さそうな所を探し回る。


「うーん、どこも良さそうな場所は取られていますね」

「レギュ言う通りッス。それに、なんだか此処でも睨まれている感じがするのは気のせいッスかね?」

「いや、気のせいじゃねぇーな。明らかに俺達をみてやがるぜ?」


 先程、宿を探していた時よりあからさまでは無く、俺達が顔を向けると慌てた様子で顔を背けるが、やはり俺達四人を見ている事は間違え無さそうだ。


「もう、今はそんな事どうでも良いから……横になりたい……」


 疲れ果てているベムは、周りの視線など気にせず、寝床に良さそうな場所を探す。結局良さげな場所が見当たらなかった為、仕方なく少し開けた場所に寝床を作る事にした。


「まぁ、周りの奴らと距離取れて丁度良いか」

「はは……そうッスね……」

「それにしても……離れ過ぎなのでは?」


 先程、少し開けたとは言ったが、本当はかなり開けた場所と言った方が良いかもしれない。


 他の者達は、村の門から百メートル程村に入り込んだ場所で集まり、寝床を作っていたが、俺たちは門から直ぐの所で寝床を作る事にした。


「ジロジロ見られるより、こっちの方が全然いい……」

「ベムさんの言う通りッスよね!」


 別にここに追い出されたというわけでは無いが、俺達が近くで寝床を作ると、睨み付けて来るのだ……それも周りの者達が一斉に。

 その為、しょうがなく、かなり離れた位置に寝床を作る事にした。


「せめて、ご飯は美味いの食べたい……」

「それに関してはお任せ下さい!」

「レギュ、自分も手伝うッス!」


 こうして、レギュとラバのお陰で飯だけはマトモな物を食べる事が出来た……

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